自転車で死亡事故

2019-07-30

自転車で死亡事故

~ケース~
Aさんは、福岡市南区の歩道において自転車を運転中、時速15キロメートルほどの速度でよそ見運転をしていたところ、歩道に隣接した建物から歩道に出てくる歩行者に気付かず、ノーブレーキで衝突してしまいました。
被害者は転倒し頭を打ち、病院に搬送されましたが間もなく死亡しました。
その後、Aさんは通報によって駆け付けた福岡県南警察署の警察官に逮捕されました。
(フィクションです)

~Aさんに成立する罪名は?~

最近では、自転車による重大な交通事故がしばしば報道されており、警察なども、自転車の交通ルール順守を呼びかけています。
自転車は「車両」ではありますが、「自動車」ではないので、過失運転致死傷罪自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)の適用はありません。
したがって、刑法上の①重過失致死傷罪、②過失致死罪の成否が検討されることになります。

「過失」とは、不注意により犯罪事実を認識・認容することなく一定の作為・不作為を行うことをいいます。
「不注意」とは、注意義務違反をいい、犯罪構成要件該当の事実、とくに結果の発生を認識、予見し、これを回避するため必要適切な措置を講ずべき義務に違反することをいいます。

~Aさんに認められる注意義務違反~

(速度の点)
まず、歩道において時速15キロメートルも出している点が気にかかります。
道路交通法第17条1項本文により、「車両は、歩道又は路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない」とされているので、Aさんは原則として車道を通行しなければなりません。

道路標識等により歩道を通行できる場合であっても、道路交通法第63条の4第2項により、当該歩道の中央から車道寄りの部分又は普通自転車通行指定部分を「徐行」しなければなりません(普通自転車通行指定部分については、当該普通自転車通行指定部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がないときは、「歩道の状況に応じた安全な速度と方法」で進行することができます)。
「徐行」とは、車両等が直ちに停止することができる速度をいいます(道路交通法2条20号)。
自転車の場合は時速4から5キロメートルといわれています。

仮にAさんが歩道を適法に自転車で通行できるものとして、普通自転車通行指定部分が無かったとした場合には、「徐行義務」があります。
時速15キロメートルは、自転車にしては比較的高速度といえ、少なくとも「直ちに」自転車を停止させることのできる速度にはあたらないでしょう。

(よそ見運転をしている点)
自転車の運転中は、進行方向における歩行者に注意して運転する注意義務があると認められるでしょう。
よそ見運転は、上記の注意義務に違反しているということができます。

上記をまとめると、Aさんは前方の歩行者の有無に留意し、自転車を進行させる義務があったのにも関わらず、歩道上において、漫然と自転車を時速15キロメートルで進行させた過失により被害者と接触、転倒させ、死亡させたものということができるでしょう。

~過失致死罪と重過失致死傷罪~

過失致死罪に留まれば、法定刑は50万円以下の罰金ですが、重過失致死罪の適用が検討されている場合は、罪が重くなります。
「重過失」とは、注意義務違反の程度が著しいことをいいます。

今回のケースにおいては、前方あるいは建物や角から出てくる歩行者に留意したり、徐行するように努めることによって、被害者と接触することを回避できたと考えられます。
「前方の歩行者に留意すること」は建物の出入り口や歩行者の歩行速度により変わってきますが、「歩道で徐行すること」は、自転車の運転者がわずかな注意を払えば実現できることです。
このような観点からは、過失致死罪に留まらず、重過失致死罪が成立する可能性も視野に入れなければなりません。
重過失致死罪の法定刑は5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

~示談交渉を弁護士に依頼~

ケースの事件が刑事手続きとして進行する場合、検察官が最終的にAさんを起訴するか、あるいは不起訴にするかを決めます。
この際に、被害者と示談が成立していると、Aさんに有利に考慮されることが期待できます。
また、起訴された場合についても最終的な量刑に示談締結の有無は影響してくる可能性が高いです。
是非、弁護士に示談交渉について相談してみましょう。

また、重過失死傷罪を疑われている際には、Aさんの運転や現場の状況、被害者の歩行を専門的に検討することで、重過失致傷罪の適用が不適当であると主張することも考えられますから、弁護士に相談して損はないでしょう。

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自転車人身事故を起こしてしまい、お困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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