Archive for the ‘危険運転致死傷罪’ Category

店舗に車で突っ込んで逮捕されてしまった事例

2022-04-14

店舗に車で突っ込んで逮捕されてしまった事例

店舗に車で突っ込んで逮捕されてしまった事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~ケース~

4月7日午後、大阪市中央区の金券ショップに軽自動車を突入させてしまい、3人に重軽傷を負わせた過失運転致傷の疑いで、30代男性が逮捕されました。
男性は急なめまいを感じ、意識がなくなったなどと述べています。
また、男性の母親は男性に低血糖の症状があると説明しています。
(カンテレ 「大阪・ミナミで金券ショップに車に突っ込み3人重軽傷 運転手の男を逮捕」(令和4年4月8日16:14配信)より引用)

こうしたケースでは、今後、どのような弁護活動が考えられるのでしょうか。

~過失運転致死傷罪について解説~

過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合に成立します(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)。
過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金となっています。

ケースの被害者らは重軽傷を負いましたが、死者はおらず、飲酒運転や信号無視等の重大な違反行為が明らかでないため、ひとまず、過失運転致傷罪の疑いで逮捕したものと考えられます。
なお、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死亡させてしまった場合においては、過失運転致死罪が成立します。

~危険運転致死傷罪について解説~

アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、人を死傷させた場合は過失運転致死傷罪よりも重い危険運転致死傷罪が成立するのはよく知られていると思います。
法定刑は危険運転致傷罪の場合は15年以下の懲役危険運転致死罪の場合は、1年以上20年以下の懲役となります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条)。

一方で、正常な運転が困難な状態とまではいえずとも、これに準ずる状態で自動車を運転し人を死傷させた場合も、重く処罰されます。
自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた」場合も、危険運転致死傷罪となります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第3条2項)。
ただし、こちらの場合の法定刑は、先ほど触れた第2条の危険運転致死傷罪の場合よりは軽く、致傷の場合は12年以下の懲役、死亡させた場合は、15年以下の懲役となります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第3条2項・1項)。
この政令で定める病気として、「自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症」があります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令第3条4号)。

~今後の弁護活動~

ケースの運転手は逮捕されています。
逮捕中は、当然、会社へ出勤することも学校へ登校することもできなくなるため、無断欠勤・無断欠席が続いた場合、会社や学校から不利益な処分を受けることが懸念されます。
そのため、早期に弁護士を依頼し、身柄解放活動を行ってもらうことが必要となるでしょう。

また、起訴され、有罪判決を受けた場合には前科がつくことになってしまいます。
自動車保険などを活用して被害者に生じさせた損害を賠償し、示談を成立させることができれば、不起訴処分あるいは略式罰金などの軽微な処分を獲得できる可能性が高まります。

起訴されてしまった場合においても、実刑判決を回避するため、誠心誠意謝罪をし、被害者と示談を成立させることが重要です。

そして、低血糖の影響により運転中に正常な運転が困難な状態に陥り負傷させたと判断されれば、危険運転致死傷罪で起訴され、より重い処罰が下されることも考えられます。

低血糖といっても自動車の運転の能力を欠けさせるような症状はないこと、被疑者もそのような症状を認識していなかったことなどの事情があれば、弁護士からそういった事情を主張し、危険運転致傷罪で起訴しないよう働きかけることも考えられるでしょう。
こういった事情があるにも関わらず危険運転致傷罪で起訴された場合、過失運転致傷罪に留まることを公判で主張することも予想されます。

いずれの場合にしろ、逮捕・勾留による身体拘束への対応や、被害者への謝罪・弁償といった被害者対応、刑事裁判を見据えた対応など、すぐに取りかかるべき活動は多く存在します。
だからこそ、早期に弁護士に相談・依頼するメリットは大きいといえるでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件少年事件を中心に取り扱う法律事務所です。
ご家族が過失運転致傷罪の疑いで逮捕されてしまった場合には、遠慮なく、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

京都市右京区の危険運転致死傷事件を相談したい

2022-04-07

京都市右京区の危険運転致死傷事件を相談したい

京都市右京区危険運転致死傷事件を相談したいというケースについて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

ケース

Aさんは、仕事終わりに京都市右京区にある友人の家へ車で遊びに来ていました。
友人宅にはお酒がたくさん用意されており、断るのも悪いと思ったAさんは少しだけなら酔っぱらうこともないだろうし、酔わない程度に飲もうと自分に言い聞かせてお酒を飲み始めました。
飲み始めは遠慮がちに飲んでいたAさんでしたが、友人の家を出るころには、真っ直ぐ歩けないほどに酔っぱらっていました。
明日も仕事に行かなければいけないAさんは、自分にかぎって事故を起こすことはないだろうと思い、車を運転しました。
Aさんの運転する車が京都市右京区の交差点に差し掛かったころ、車が何かにぶつかったのか強い衝撃を感じました。
車を降りてみてみると、Aさんの車の前方に人が横たわっていました。
Aさんは赤信号に気付かずに横断歩道に突っ込み、横断歩道を渡っていたVさんを轢いてしまっていたのです。
Aさんは救急車を呼びましたが、その場でVさんの死亡が確認されました。
翌日、Aさんは京都府右京警察署の警察官に危険運転致死罪の容疑で逮捕されました。
(フィクションです。)

飲酒運転

危険運転致死傷罪について解説する前に、飲酒運転について解説します。

飲酒運転の禁止は道路交通法で定められています。
道路交通法第65条1項「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」が飲酒運転を禁止している条文となります。

道路交通法第65条1項に違反して、身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で飲酒運転を行った者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金が科されます。(道路交通法第117条の2)

また、お酒に酔ったことで正常な運転ができない状態で運転を行った者は、五年以下の懲役または百万円以下の罰金が科されることとなります。(道路交通法第117条の2)

危険運転致死傷罪

危険運転致死傷罪は、危険運転行為をしたことによって、人に怪我を負わせたり、人を死なせてしまったときに適用されます。
危険運転致死傷罪は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」で規定されています。
飲酒運転に関わる危険運転致死傷罪の条文は、以下のものです。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

第3条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

自動車運転処罰法の2条と3条では、どちらもアルコールの影響に関連した危険運転による人身事故について定めていますが、刑罰の重さが異なります。
この2つの条文で定めるものの違いは、簡単に言えば、正常な運転が困難になったタイミングです。

自動車運転処罰法2条では、車を運転する前に自分の今の状態では正常な運転が困難な状態であるのがかっている状態で運転するケースを定めています。
対して、自動車運転処罰法3条では、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあるという程度の状態で運転を開始し、運転中に正常な運転が困難な状態に陥ったというケースを定めています。
このうち、最初から正常な運転が困難な状態=より危険な状態であるにもかかわらず運転を開始した状況である自動車運転処罰法2条の方が重い刑罰が設定されているということなのです。

今回のケースでは、Aさんは、運転をする前に、まっすぐ歩けないほどに酔っぱらっている状態ですので、「正常な運転が困難な状態」であるにもかかわらず運転し、死亡事故を起こしたと考えられ、自動車運転処罰法2条の危険運転致死罪が成立すると考えられます。

危険運転致死傷事件に強い弁護士に相談

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、数多くの刑事事件少年事件を取り扱っており、危険運転致死傷事件についてもご相談・ご依頼を受け付けています。
ご予約は、フリーダイヤル0120―631―881でいつでも受け付けておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

危険運転致傷で逮捕

2021-12-07

危険運転致傷事件で逮捕されてしまった場合における弁護活動などについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

Aは、進行中の道路上が滑りやすい状態であると認識しつつ、制限速度を大幅に超える速度で自車を走行させていた。
しかし、Aはカーブを曲がり切れず、ガードレールに衝突し同乗者Vに怪我を負わせた。
博多警察署の警察官は、Aを危険運転致傷の疑いで逮捕した。
Aの家族は、交通事件に強いと評判の弁護士に相談することにした(本件は事実をもとにしたフィクションです)。

~危険運転致死傷罪とその類型~

本件でAは、危険運転致傷の罪によって逮捕されてしまっています。
被害者の死傷を伴う交通犯罪については、2015年に自動車運転死傷行為処罰法が制定され、同法によって処罰されることになりました。
同法は、道路交通法や刑法などと比べると、あまり耳馴染みのない法律かもしれません。
そこで、本稿では、同法が規定する「危険運転致死傷罪」にフォーカスし、同罪の諸類型について見ていくことにします。

自動車運転死傷行為処罰法は、2条において「次に掲げる行為を行い」「よって、人を負傷させた者」を、危険運転致死傷罪として処罰する旨を規定しています。
ここにいう「次に掲げる行為」とは、同条1号~6号によって規定されている6つの危険運転行為を指します。
まず1号は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を、危険運転行為として規定しています。
これは、一読して分かるとおり、いわゆる飲酒運転等を重く処罰する趣旨の規定といえます。
次に2号は、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」を規定しています。
「高速度」とは、速度が速すぎるため自車を進路に沿って走行させることが困難な速度をいい、これに当たるかどうかは道路状況や車両の構造等に照らして判断されることになります。
3号は、「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」を規定し、ここにいう「技能」とは、初歩的な技能を有しないことをいい、免許の有無は問われません。
4号では、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近……する行為」を規定しています。
典型的には割り込みや幅寄せ行為がこれに該当することになりますが、これに加えて「通行を妨害」する意図があることまでが必要とされる点に注意が必要です。
5号は、「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し」た場合を、危険運転行為と規定しています。
赤色信号との確定的な認識までは必要なく、信号に従う意思がない場合にはこれに該当するとされています。
最後に6号は、「通行禁止道路」を進行する行為、つまり、歩行者専用道路の走行や高速道路の逆送行為等を危険運転行為として、重く処罰する趣旨の規定になります。
なお、4~6号に関しては上記それぞれの行為に当たることを前提に、「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」を処罰する規定であることに注意が必要です。

~危険運転致傷事件における弁護活動~

本件事例は、このうち2号の危険運転行為に該当するものと考えられることから、いち早く弁護士に相談することが重要です。
危険運転行為に該当し、危険運転致死傷罪が問われる場合には、重い処分が下される可能性があることに十分に注意しなければなりません。
交通事件だからといって、甘い見通しを持つことは禁物です。
本件のように逮捕されてしまっている場合には、勾留される可能性にも留意した弁護活動を行っていく必要があるでしょう。
また、交通事件でも被害者対応が極めて重要になってくることから、この点に関して十分に経験を積んだ弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、危険運転致傷事件を含む交通事件などの刑事事件を専門とする法律事務所です。
危険運転致傷事件で逮捕された方のご家族は、フリーダイヤル(0120-631-881)までまずはお電話ください。

睡眠導入剤の影響による危険運転致死傷罪

2021-08-14

睡眠導入剤影響による危険運転致死傷罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
Aさんは、運転中に意識障害に陥り、福岡県うきは市の道路の左端を歩いていた歩行者に衝突し、全治1か月の怪我を負わせる事故を起こしてしまいました。
Aさんは、前夜に睡眠導入剤を服用しており、その影響があったのではないかと、福岡県うきは警察署危険運転致死傷の適用も視野に入れて捜査をしています。
(フィクションです。)

危険運転致死傷罪とは

人身事故を起こした場合、通常は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)に規定されている「過失運転致死傷罪」が適用されます。
これは、自動車を運転する上で必要な注意を怠り、人を死傷させる罪です。
しかし、過失の程度がひどく、故意や故意に近いような重大な過失によって交通事故を起こした場合には、自動車運転処罰法に規定されている「危険運転致死傷罪」に問われることになります。

自動車運転処罰法2条1号は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を行い、よって、人を負傷させた場合は15年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処することを定めています。

■薬物の影響により正常な運転が困難な状態■

「薬物」とは、覚せい剤や麻薬といった規制薬物や、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律」(以下、「医薬品医療機器等法」といいます。)で指定された指定薬物に限らず、中枢神経系の興奮もしくは抑制または幻覚の作用などを有する物質であって、自動車を運転する際の判断能力や運転操作能力に影響を及ぼす性質を持つ物質であればよいとされています。

「薬物の影響」とは、薬物の摂取により正常な身体又は精神の状態に変化を生じ、運転に際して注意力の集中、距離感の確保等ができないため、運転者に課せられた周囲義務を果たすことができないおそれのある状態をいいます。
「薬物の影響により」とあるように、運転操作に対する障害は、薬物の「影響により」もたらされなければなりません。
そのため、薬物を摂取した場合であっても、睡眠不足や過労の影響で注意力が散漫になり、その結果、事故を起こしたのであれば、それは薬物の影響により惹起されたものではなく、本罪は成立しません。

「正常な運転が困難な状態」については、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることをいいます。

そして、「よって」という文言があるように、本罪が成立するためには、薬物の影響により正常な運転が困難な状態であったということと、当該事故との間に因果関係があることが必要です。
つまり、当該事故が、的確な運転行為を行っていたとしても回避不能であると認められる場合には、因果関係が否定されることになります。

■故意■

危険運転致死傷罪は故意犯であるため、罪を犯す意思がなければなりません。
つまり、被疑者が当該車両を運転している際に、自己が「薬物の影響により正常な運転が困難な状態」にあることを認識している必要があるのです。
この点、被疑者に求められる認識は、法的評価の伴う「薬物の影響により正常な運転が困難な状態」ではなく、それを基礎付ける事実についての認識です。
薬物を摂取して頭がふらふらするとか、幻覚がちらついているとか、正常な運転が困難な状態に陥るための事実関係を認識していれば足りるとされています。
単に、被疑者自身が「正常に運転できる」と思っていたとしても、過去に薬物を摂取して運転して意識障害を何度も起こしている、薬物の効能を知っている、といった事実があれば薬物の影響により正常な運転が困難である状態であることを認識していたものと認められます。

また、同法3条1号は、「アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り」、人を負傷させた場合は12年以下の懲役に、人を死亡させた場合は15年以下の懲役に処する、と規定しています。

■その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で■

「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、先の「正常な運転が困難な状態」であるとまではいえないものの、自動車を運転するのに必要な注意力、判断能力または操作能力が、そうではないときの状態と比べると相当程度減退して危険性のある状態、そして、そのような危険性のある状態になり得る具体的なおそれがある状態をいうとされています。

■故意■

運転開始前、または運転中に薬物を摂取し、それによって「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」となっていることを認識しながら運転したのであれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」を認識していたと言えます。
先に述べたように、薬物の薬理作用を知っていながら摂取した場合は、「正常な運転が困難な状態」の認識があったことになるものと考えられます。
しかし、初めて当該薬物を用いる場合、その薬理作用について正確な知識がない場合でも、少なくとも精神・神経に何らかの影響を与えることは十分承知しているはずであるから、その未必的な危険性については認識しており、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」についての認識があったと認められるでしょう。

睡眠導入剤の影響による危険運転致死傷罪

睡眠導入剤には、脳の機能を低下させ、大脳辺縁系や脳幹網様体と呼ばれる部分の神経作用を抑えることで睡眠作用をもたらす薬理作用があります。
睡眠導入剤影響による危険運転致死傷罪の成立が争われる場合、
①運転操作に睡眠導入剤影響を与えたか否かが不明であるから、薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転してはいない、薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ってもいない。
②薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転することについての認識がない。
といった主張がなされるケースが想定されます。
睡眠導入剤影響のよる危険運転致死傷罪が成立し得るのか、事案によって異なりますので、交通事件に対応する弁護士に相談されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件を含めた刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
ご家族が危険運転致死傷事件で逮捕されてお困りであれば、今すぐ弊所の弁護士にご相談ください。
無料法律相談初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。

交通事犯で逮捕、保釈で釈放

2021-07-31

交通事犯逮捕され、保釈釈放を目指す場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
兵庫県神戸市垂水区で人身事故を起こしたAさんは、兵庫県垂水警察署逮捕されました。
Aさんは、飲酒運転により人身事故を起こしており、警察は危険運転致死傷の適用も視野に入れて捜査をしているようです。
Aさんは、接見に来た弁護士に釈放の可能性について聞いています。
(フィクションです。)

交通事犯で逮捕されたら

交通事犯については、全体として厳罰化の傾向にあります。
交通事犯というのは、一般に、自動車運転に係る犯罪のことを意味し、道路交通法違反、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪などの犯罪のことをいいます。
交通事犯は、単純な無免許運転や飲酒運転(酒気帯び運転、酒酔い運転)のような被害者のいないものから、過失運転致死傷罪や危険運転致傷罪などの被害者がいるものと、その態様は様々です。

そのため、交通事犯逮捕された場合、その後の身体拘束についても、その態様に軽重に比例する傾向にあります。
単純な無免許運転や飲酒運転、スピード違反、被害の程度が比較的軽微である人身事故であれば、逮捕後に勾留されずに釈放される可能性はあります。

勾留というのは、逮捕後に引き続き被疑者の身柄を比較的長期間拘束する裁判とその執行のことをいいます。
検察官からの勾留請求を受けて、裁判官が勾留の要件を充たしているかどうかを検討し、勾留の決定をするかどうかを判断します。
勾留の要件には、①勾留の理由、そして、②勾留の必要性、の2つがあります。
①勾留の理由とは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること、そして、定まった住居を有しないこと、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること、あるいは、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があること、のいずれかに該当することです。
これらの理由がある場合であっても、被疑者を勾留することにより得られる利益が極めて弱い場合や、被疑者が勾留によって被る不利益が著しく大きい場合には、勾留の実質的な相当性(必要性)を欠くとして、勾留は認められません。

交通事犯においては、死亡事故等、被害が重大な場合を除いては、身体拘束がなされることが比較的少ないことが特徴です。
ただ、危険運転致死傷罪に当たるような事故を起こした場合には、逮捕後に勾留となる可能性は高まります。
捜査段階での釈放が困難な場合には、起訴後に保釈を利用して釈放されることを目指します。

保釈で釈放を目指す

一定額の保釈保証金を納付することを条件として、被告人に対する勾留の執行を停止し、その身柄拘束を解く裁判及びその執行を「保釈」といいます。
保釈は、起訴された段階から請求することが出来ますが、起訴前の被疑者勾留では請求することは出来ません。
保釈には、以下の3つの種類があります。

1.権利保釈(必要的保釈)
裁判所は、権利保釈の除外事由に該当しない場合には、保釈請求があったときは、原則として保釈を許可しなければなりません。
除外事由は、以下の通りです。
①被告人が、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁固に当たる罪を犯したものであるとき。
②被告人が、前に、死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁固に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
③被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
④被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由のあるとき。
⑤被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
⑥被告人の氏名又は住居が分からないとき。

2.裁量保釈(任意的保釈)
裁判所は、上の権利保釈の除外事由がある場合であっても、適当と認めるときは、職権で保釈を許可することが出来ます。

3.義務的保釈
裁判所は、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、請求により、又は職権により、保釈を許可しなければなりません。

危険運転致死傷罪という重い罪であっても、単独犯であり組織的な背景がないことが多いですから、罪証隠滅のおそれはそれほど高いものではなく、保釈が認められる可能性はあります。

交通事犯逮捕され、捜査段階での釈放が困難な場合には、起訴後すぐに保釈を請求し、保釈が認められるよう事前に準備しておくことが必要があります。

交通事犯逮捕され、早期釈放をお望みであれば、刑事事件に強い弁護士にご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事犯を含めた刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
無料法律相談初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。

無免許飲酒運転でひき逃げ

2021-07-17

無免許飲酒運転ひき逃げした事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
大阪府大阪市都島区の交差点で、横断中の歩行者をひいて逃走したとして、大阪府都島警察署は、車を運転していたAさんを逮捕しました。
事件後、現場から少し離れた駐車場で車を止め、車内で寝ていたAさんを発見し、呼気検査をしたところ、基準値を超えるアルコールが検出されました。
また、Aさんは免停中であることが発覚し、警察は、Aさんが、無免許のうえ、酒を飲んで車を運転し、横断していた被害者をひき逃げした疑いで、捜査を進めています。
(フィクションです。)

無免許飲酒運転でひき逃げした場合

無免許運転かつ飲酒運転ひき逃げをした、という上の事例のようなケースでは、どのような罪が成立するのでしょうか。

1.飲酒運転

道路交通法第65条第1項は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」と規定しており、身体にアルコールを保有したまま車両等を運転することは禁止されています。
そして、一定程度以上のアルコールを身体に保有したまま車両等を運転する行為は、刑事罰の対象となります。

■酒気帯び運転■
血中アルコール濃度が一定量に達しているかどうか、という形式的な基準で判断されます。
その基準とは、「呼気1リットルあたりのアルコール濃度が0.15ミリグラム以上」です。
酒気帯び運転の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

■酒酔い運転■
酒酔い運転は、アルコール濃度の検知値には関係なく、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」で車両等を運転した場合に成立します。
具体的には、直線を真っすぐ歩けるか、呂律が回っているか等といった点から判断されます。酒酔い運転の法定刑は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金と、酒気帯び運転の法定刑よりも重くなっています。

2.人身事故

■過失運転致死傷■
通常、人身事故を起こした場合、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)で規定される「過失運転致死傷罪」が適用されます。
この罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立します。
前方不注意や巻き込み確認を怠ったこと等の不注意によって相手を死亡させた場合には、過失運転致死傷罪が適用されます。
過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

■危険運転致死傷■
ところが、飲酒運転で人身事故を起こした場合、より重い罪が成立する可能性があります。
それは、「危険運転致死傷罪」です。
危険運転致死傷罪は、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ」、「よって、人を負傷させた」場合に成立します。
この場合の法定刑は、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役と、かなり重くなります。
また、「アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させ」た場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役が科される可能性があります。
危険運転致死傷罪が適用される場合、道路交通法違反(酒気帯び運転、酒酔い運転)は危険運転致死傷罪に吸収されるため、別個には成立しません。

3.無免許運転

■無免許運転■
道路交通法第64条第1項で、「何人も、第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けないで、自動車又は原動機付自転車を運転してはならない。」と規定し、無免許運転を禁止しています。
無免許運転の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

■無免許運転による加重■
自動車運転処罰法第6条は、「第2条(危険運転致死傷)の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、6月以上の有期懲役に処する。」と規定しています。
また、第3条(準危険運転致死傷罪)の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をした者であるときは、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は6月以上の有期懲役と加重されます。
更に、第5条(過失運転致死傷)を犯した者が、無免許運転をしたときは、10年以下の懲役と刑が加重されます。

4.ひき逃げ

■救護義務違反■
道路交通法第72条第1項前段は、「交通事故があったといは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」と規定しています。
これを「救護義務」といい、これに反して現場から逃走する行為を「ひき逃げ」と呼びます。
救護義務違反の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金ですが、人身事故が、「人の死傷が当該運転者の運転に起因する」ものである場合に救護義務に違反した場合は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

■過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱■
自動車処罰法第4条は、アルコールの影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時にアルコールの影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコールを摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコールの濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、12年以下の懲役に処すると規定しています。
この罪を犯した者が、無免許運転であった場合には、刑は15年以下の懲役に加重されます。

無免許運転かつ飲酒運転ひき逃げをした場合で、成立し得る罪としては、次の4つのケースが考えられます。
①道路交通法違反(酒気帯び運転、または酒酔い運転)、無免許過失運転致死傷、道路交通法違反(救護義務違反)の3罪。
②無免許危険運転致死傷、道路交通法違反(救護義務違反)の2罪。
③無免許準危険運転致死傷、道路交通法違反(救護義務違反)の2罪。
④無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱、道路交通法違反(救護義務違反)の2罪。
いずれの場合も、実刑の可能性が高く、弁護人は、被害者との示談成立、被告人の反省の態度や再発防止措置が講じられている等の被告人に有利な事情を示し、できる限り刑が軽くなるように弁護することになるでしょう。
また、危険運転致死が成立する場合には、裁判員裁判の対象となりますので、裁判員裁判に向けた公判準備を行う必要もあります。
交通事故を起こし対応にお困りの方は、早期に弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件にも対応する刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
無料法律相談初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。

危険運転(殊更赤無視)で裁判員裁判②

2021-05-15

危険運転殊更赤無視)で裁判員裁判となった場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
大阪府河内長野市の信号機で交通整理されている交差点に、目の前の信号が赤であるにもかかわらず同交差点を直進し、歩行者用の信号機が青に変わったことを確認して横断道路を横断中の歩行者をはねて死亡させたとして、大阪府河内長野警察署は車を運転していたAさんを危険運転致死の容疑で逮捕しました。
(フィクションです。)

裁判員裁判とは

危険運転致死罪は、裁判員裁判の対象事件となります。
裁判員裁判とは、国民の中から選ばれた裁判員6名と裁判官3名が、被告人が有罪であるか無罪であるか、有罪である場合にはいかなる刑を科すかを判断する制度です。

裁判員裁判の対象となる事件は、
①死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる事件、
②故意の犯罪により人を死亡させた事件(①に当たるものを除く)
です。
危険運転致死罪は、故意犯(故意に一定の危険な運転行為をし、その結果、人を死亡させる罪)であるため、②に該当します。
これに対し、過失運転致死罪は、故意の犯罪ではありませんから、①②のいずれにも当てはまらず、裁判員裁判対象事件ではありません。

裁判員裁判の流れ

裁判員裁判は、通常の裁判とは異なる流れとなります。
通常の裁判では、法廷に裁判官・検察官・弁護人・被告人が出席したうえで、公開の法廷で議論が進められます。
これに対し、裁判員裁判では、実際の裁判が開かれる前に、公判前整理手続という手続きが行われます。
公判前整理手続とは、裁判員に実際に審理をしてもらう前に、裁判官・検察官・弁護人の三者により、本件事件の争点や、実際に裁判に提出する証拠を整理する手続きです。
このような手続の中で、事件の争点や、重要な事実が整理され、裁判員には、最初から争点や判断の対象が提示されるようになっています。
公判前整理手続を経た事件の場合、この手続きが終結した後には、特別の事情がない限り新たな証拠の提出が許されなくなります。

Aさんの事件で、弁護側が主張すると考えられる点として、自動車側の対面信号が赤であったと明確に認識していなかったため、危険運転致死罪ではなく過失運転致死罪が成立する、というようなものが考えられます。
弁護人は、検察官が提示する証拠を精査した上で、被告人が赤信号を見落としていたという可能性が否定できないことを立証していきます。
危険運転致死罪と過失運転致死罪は、その法定刑が大きく異なるため、成立する罪によってその後の生活にも大きな影響を及ぼしかねません。

裁判員裁判は、通常の裁判と異なる流れとなるため、裁判員裁判が見込まれる事件では、刑事事件に強い弁護士に弁護を依頼されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件を専門に取り扱っており、裁判員裁判を経験した弁護士も多数所属しております。
ご家族が裁判員裁判対象の事件を起こしてしまいお困りの方は、弊所の弁護士にご相談ください。
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危険運転(殊更赤無視)で裁判員裁判①

2021-05-08

危険運転殊更赤無視)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
大阪府吹田市の信号機で交通整理されている交差点に、目の前の信号が赤であるにもかかわらず同交差点を直進し、歩行者用の信号機が青に変わったことを確認して横断道路を横断中の歩行者をはねて死亡させたとして、大阪府吹田警察署は車を運転していたAさんを危険運転致死の容疑で逮捕しました。
(フィクションです。)

危険運転の罪

「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)第2条は、危険運転致死傷罪について規定しています。

危険運転致死傷罪は、自動車の危険な運転によって人を死傷させた場合に適用される犯罪です。
危険運転の対象となる行為には、
①アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。
②その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。
③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。
④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
⑤車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止し、その他これを著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為。
⑥高速自動車国道において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為。
⑦赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
⑧通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
があります。

上記事例で問題となっているのは、⑦です。

⑦は、赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって、人を死傷させた場合に適用されます。

(1)赤信号又はこれに相当する信号
「赤色信号」は、道路交通法施行令第2条1項の「赤色の灯火」と同じ意味であり、「これに相当する信号」というのは、道路交通法に定める警察官又は交通巡視員による手信号又は灯火による信号のことです。
赤色の灯火の点滅を含めてこれら以外の信号は、「赤色信号又はこれに相当する信号」には含まれません。

(2)殊更に無視し
法制審議会において、「赤色信号を殊更に無視」(以下、「殊更赤無視」といいます。)した場合と言えるのは、赤色信号に従わない行為のうち、赤色信号におよそ従う意思のないものをいうのであって、赤色信号であることを認識していること、止まろうと思えば止まれること、そしてあえて進行することの要件を備えている場合であると説明されました。
つまり、(a)赤色信号であることの認識、(b)止まろうと思えば止まれること、(c)それでもあえて進行したこと、の3つの要件を満たす場合には「殊更赤無視」したと言えるとするのが、立法者の意思であったのです。
立法当初から「殊更赤無視」に該当する典型例としては、
①赤色信号であることについての確定的な認識があり、交差点手前の停止線で停止することが十分可能であるのに、これを無視して交差点内に進入する行為、
②信号の規制を全く無視して、およそ赤色信号であろうとなかろうと最初から信号表示を一切意に介することなく、赤色信号の規制に違反して交差点に進入する行為、
が挙げられていました。

(a)赤色信号であることの認識
殊更赤無視」に当たると言えるためには、「赤色信号を無視すること」、つまり、赤信号であることを確定的に認識していなければなりません。
赤色信号を看過した場合や、信号の変わり際の未必的な認識が認められるに過ぎない場合は「殊更赤無視」には当たりません。
また、およそ赤色信号に従う意思のないものが「殊更に無視」であって、赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色心が呉であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も「殊更に無視」する行為に含まれます。
例えば、パトカーの追跡から逃れるために信号機で交通整理されている交差点を信号を確認することなく直進する行為がこれに当たります。

(b)停止線での停止可能性
赤信号は、車両等が停止線を越えて進行してはならないという意味がありますが、これは停止線を越えてしまった車両等については何ら規制していないと解すべきではなく、停止線を越えて進行した場合にもなお進行を禁じ、停止する義務を課していると理解すべきであるため、「殊更無視」の該当するか否かを判断する際には停止線で停止可能か否かという点が決定的な意味を持つわけではなく、停止線を越えたとしても横断歩道などの手前で停止することが可能であり、交差点での衝突事故を回避できる状況であったか否かがポイントとなります。

(3)重大な交通の危険を生じさせる速度
衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度、あるいは、そのような大きな事故になるような衝突を回避することが困難であると一般的に認められる速度であって、運転者がこれらの速度であると認識していることが必要です。
赤色信号を殊更無視した場合であっても、大きな事故を避けることができる速度に減速しているのであれば、「重大な交通の危険を生じさせる速度」には当たりません。

(4)よって人を負傷・死亡させた
危険運転致死傷罪(殊更赤無視)の成立には、赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転したことと、事故との間に因果関係が必要となります。

以上の要件を満たした場合に、危険運転致死傷罪(殊更赤無視)が成立することになります。
危険運転致死傷罪(殊更赤無視)の法定刑は、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役です。
人を死亡させた場合(危険運転致死罪)は、裁判員裁判対象事件となるため、通常の刑事事件とは異なる手続に付されます。

危険運転致死傷事件で被疑者・被告人となってしまった場合には、早期に刑事事件に強い弁護士に相談されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件専門の法律事務所です。
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危険運転:技能未熟運転

2021-03-20

危険運転致死傷罪における技能未熟運転について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
京都府綾部市の市道において、ワンボックス車を運転していたAさんは、交差点を左折する際に、歩行者をはねる事故を起こしました。
Aさんは、無免許で車を運転していたことが発覚し、京都府綾部警察署は、無免許の過失運転致傷の疑いでAさんを逮捕しました。
その後、Aさんは、危険運転致傷罪(技能未熟運転)で京都地方検察庁福知山支部に起訴されました。
(フィクションです。)

危険運転致死傷罪とは

人身事故を起こした場合、通常は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)で規定される「過失運転致死傷罪」が適用されることになります。
しかし、事故の内容によっては、より法定刑が重い危険運転致傷罪が適用されることがあります。

危険運転致傷罪は、危険な運転で人を死傷させた場合に適用される犯罪です。
自動車運転処罰法の2条と3条に規定されています。

アルコール・薬物の影響で正常な運転が困難で状態で自動車を運転する、運転をコントロールすることが困難なスピードで運転する、いわゆる「あおり運転」や赤信号無視などを行った結果、人に怪我を負わせてしまった場合には15年以下の懲役に、死亡させてしまった場合には1年以上の有期懲役が科される可能性があります。
自動車運転処罰法2条の危険運転には、技能未熟運転が含まれています。

技能未熟運転とは

「進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」が、技能未熟運転です。
この「進行を制御する技能を有しない」とは、どの程度のことを指すのでしょうか。

「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドル・ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能ですら有しないような運転の技量が極めて未熟なことを意味すると考えられています。
典型的な例としては、これまで一度も運転免許を取得したことがなく、自動車の運転経験もないような者であって、ハンドル・ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能がないにもかかわらず、自動車を走行させるような場合です。
「進行を制御する技能を有しない」かどうかの判断は、事故態様、運転状況、運転経験の有無やその程度などを総合的に考慮して判断されるでしょう。
そのため、「進行を制御する技能を有しない」=無免許とはなりません。

技能未熟運転での危険運転致死傷罪が成立するか否かは、さまざまな要素についてしっかりと検討する必要があります。
交通事故を起こし危険運転致死傷に問われてお困りの方は、法律の専門家である弁護士に相談してください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件にも対応する刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
無料法律相談初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。

持病発症で人身事故

2021-02-06

持病発症人身事故を起こした場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
神奈川県大和市に住むAさんは、車で妻を駅まで迎えに行く途中、持病のてんかんの発作で意識を失い、運転していた車ごと車道に乗り上げました。
車は、車道を歩行中の高齢女性に接触し、女性は重傷を負いました。
Aさんは、後日、横浜地方検察庁に自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪で起訴されました。
Aさんは、裁判で弁護をしてくれる弁護士を探しています。
(フィクションです)

持病を発症し人身事故を起こしたら

自動車を運転中に持病などが発症し、意識を失い、運転手や同乗者、対向車や歩行者が怪我をする、あるいは死亡する事故は少なくありません。

人身事故を起こした場合、多くは、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われることになります。
過失運転致死傷罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立する罪です。
「自動車の運転上必要な注意を怠り」とは、自動車の運転者が、自動車の各種装置を操作して、そのコントロール下において、自動車を動かす上で必要とされる注意義務を怠ることをいいます。
前方不注意や脇見運転、アクセルとブレーキの踏み間違いなどが該当します。

しかしながら、上記事例のように持病がありながら車を運転し、運転中に持病発症したことにより人身事故を起した場合には、過失運転致死傷罪ではなく危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。

危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第3条2項)

自動車運転処罰法は、その3条2項において、
「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。」
と規定しています。

①政令で定めるものの影響により

ここでいう「政令で定める病気」というのは、
(1)自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する総合失調症
(2)意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)
(3)再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)
(4)自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈する低血糖症
(5)自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう秒及び鬱病を含む。)
(6)重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
です。
これらの病気の「影響により」とは、ただただ病気の影響によるものであることまで必要とされず、病気が他の要因と競合して正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になった場合も含まれます。

②その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態

「正常な運転に支障が生じるおそれのある状態」というのは、病気のために自動車を運転するのに必要な注意力、判断能力、操作能力が相当程度低下して危険性のある状態のことをいいます。
そのような危険性のある状態になり得る具体的なおそれがある状態も含まれ、意識を失うような発作の前兆症状が出ている状態であったり、処方された薬を服用しないために運転中に発作で意識を失ってしまうおそれがある状態などがこれに当たります。

また、本罪の成立には、運転行為終了までの間に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したことの認識が必要となります。
そのため、病気が突然発症した場合、運転者は病気の症状について認識しておらず、病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあることの認識はないため、危険運転致死傷罪は成立しないことになります。

③よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた

本罪が成立するためには、病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、その結果正常な運転が困難な状態となり、人を死傷したという因果関係が存在しなければなりません。

てんかん発作の影響に関連する判例は、医師からてんかんの診断を受けていた場合、つまり、被告人がてんかんについて十分な知識がある場合だけでなく、てんかんの診断を受けていなくとも、てんかんに見られるような意識喪失をもらたす発作が過去に生じていた場合も、運転中にてんかんの発作が発症し、正常な運転に支障が生じるおそれがあると認識していたことを認めたものがあります。
Aさんの場合、医師からてんかんの診断を受けており、てんかんの症状について十分理解していたのであれば、「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し」たことを認識していたと故意が認められ、危険運転死傷罪が成立すると考えられます。

本罪の法定刑は、人を負傷させた場合は12年以下の懲役で、人を死亡させた場合は15年以下の懲役となっており、決して軽い罪とは言えません。

運転中に持病発症人身事故を起こし、危険運転致死傷罪に問われた場合には、できる限り寛大な処分となるよう交通事故に強い弁護士に相談されるのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件を含む刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
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