Archive for the ‘交通事故(人身事故)’ Category
危険運転(殊更赤無視)で裁判員裁判①
危険運転(殊更赤無視)について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
大阪府吹田市の信号機で交通整理されている交差点に、目の前の信号が赤であるにもかかわらず同交差点を直進し、歩行者用の信号機が青に変わったことを確認して横断道路を横断中の歩行者をはねて死亡させたとして、大阪府吹田警察署は車を運転していたAさんを危険運転致死の容疑で逮捕しました。
(フィクションです。)
危険運転の罪
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)第2条は、危険運転致死傷罪について規定しています。
危険運転致死傷罪は、自動車の危険な運転によって人を死傷させた場合に適用される犯罪です。
危険運転の対象となる行為には、
①アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。
②その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。
③その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。
④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
⑤車の通行を妨害する目的で、走行中の車の前方で停止し、その他これを著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為。
⑥高速自動車国道において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為。
⑦赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
⑧通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
があります。
上記事例で問題となっているのは、⑦です。
⑦は、赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって、人を死傷させた場合に適用されます。
(1)赤信号又はこれに相当する信号
「赤色信号」は、道路交通法施行令第2条1項の「赤色の灯火」と同じ意味であり、「これに相当する信号」というのは、道路交通法に定める警察官又は交通巡視員による手信号又は灯火による信号のことです。
赤色の灯火の点滅を含めてこれら以外の信号は、「赤色信号又はこれに相当する信号」には含まれません。
(2)殊更に無視し
法制審議会において、「赤色信号を殊更に無視」(以下、「殊更赤無視」といいます。)した場合と言えるのは、赤色信号に従わない行為のうち、赤色信号におよそ従う意思のないものをいうのであって、赤色信号であることを認識していること、止まろうと思えば止まれること、そしてあえて進行することの要件を備えている場合であると説明されました。
つまり、(a)赤色信号であることの認識、(b)止まろうと思えば止まれること、(c)それでもあえて進行したこと、の3つの要件を満たす場合には「殊更赤無視」したと言えるとするのが、立法者の意思であったのです。
立法当初から「殊更赤無視」に該当する典型例としては、
①赤色信号であることについての確定的な認識があり、交差点手前の停止線で停止することが十分可能であるのに、これを無視して交差点内に進入する行為、
②信号の規制を全く無視して、およそ赤色信号であろうとなかろうと最初から信号表示を一切意に介することなく、赤色信号の規制に違反して交差点に進入する行為、
が挙げられていました。
(a)赤色信号であることの認識
「殊更赤無視」に当たると言えるためには、「赤色信号を無視すること」、つまり、赤信号であることを確定的に認識していなければなりません。
赤色信号を看過した場合や、信号の変わり際の未必的な認識が認められるに過ぎない場合は「殊更赤無視」には当たりません。
また、およそ赤色信号に従う意思のないものが「殊更に無視」であって、赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色心が呉であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も「殊更に無視」する行為に含まれます。
例えば、パトカーの追跡から逃れるために信号機で交通整理されている交差点を信号を確認することなく直進する行為がこれに当たります。
(b)停止線での停止可能性
赤信号は、車両等が停止線を越えて進行してはならないという意味がありますが、これは停止線を越えてしまった車両等については何ら規制していないと解すべきではなく、停止線を越えて進行した場合にもなお進行を禁じ、停止する義務を課していると理解すべきであるため、「殊更無視」の該当するか否かを判断する際には停止線で停止可能か否かという点が決定的な意味を持つわけではなく、停止線を越えたとしても横断歩道などの手前で停止することが可能であり、交差点での衝突事故を回避できる状況であったか否かがポイントとなります。
(3)重大な交通の危険を生じさせる速度
衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度、あるいは、そのような大きな事故になるような衝突を回避することが困難であると一般的に認められる速度であって、運転者がこれらの速度であると認識していることが必要です。
赤色信号を殊更無視した場合であっても、大きな事故を避けることができる速度に減速しているのであれば、「重大な交通の危険を生じさせる速度」には当たりません。
(4)よって人を負傷・死亡させた
危険運転致死傷罪(殊更赤無視)の成立には、赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転したことと、事故との間に因果関係が必要となります。
以上の要件を満たした場合に、危険運転致死傷罪(殊更赤無視)が成立することになります。
危険運転致死傷罪(殊更赤無視)の法定刑は、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役です。
人を死亡させた場合(危険運転致死罪)は、裁判員裁判対象事件となるため、通常の刑事事件とは異なる手続に付されます。
危険運転致死傷事件で被疑者・被告人となってしまった場合には、早期に刑事事件に強い弁護士に相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件専門の法律事務所です。
無料法律相談・初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。
過失運転致死傷罪と過失の有無
過失運転致死傷罪と過失の有無について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
埼玉県富士見市の中央分離帯のない片側一車線の道路を軽自動車で走行していたAさんは、信号のない交差点で右折しようと減速し、右折し始めたところ、後方を走行していたバイクが反対車線にはみ出し、法定速度を超える速さで、Aさんの車の右後方からAさんの車を追い越そうとしました。
バイクはAさんの車とぶつかり、バイクは激しく転倒しました。
Aさんとバイクの運転手は病院に運ばれましたが、バイクの運転手は間もなく死亡しました。
埼玉県東入間警察署は、過失運転事件として捜査を開始しました。
(フィクションです。)
過失運転致死傷罪
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(「自動車運転処罰法」といいます。)第5条は、
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
と規定しています。
「自動車の運転上必要な注意を怠り」とは、自動車の運転者が、自動車の各種装置を操作して、そのコントロール下において、自動車を動かす上で必要とされる注意義務を怠ることをいいます。
過失運転致死傷罪は、過失による罪なので、故意がなくとも不注意によって相手に怪我を負わせたり、死亡させてしまった場合に成立する可能性があります。
「過失」というのは、不注意に(=注意義務に反して)構成要件上保護された法益を侵害することを意味します。
つまり、注意すべき義務があったのにそれに違反することが「過失」です。
それでは、注意義務とはどのようなことを指すのか、という点ですが、過失犯の注意義務は、①結果を予見する義務、そして、②そのような予見に基づいて結果を回避する義務から成り立っていると考えられています。
①結果を予見する義務
結果が生じることを予見するべきであったのに、それを怠ったために漫然と行為にでて結果を生じさせてしまった場合、結果予見義務に対する違反が問われます。
結果予見義務に違反したと判断するには、結果を予見することができたこと、つまり、結果の予見可能性がなければなりません。
結果を予見することが不可能である場合には、結果予見義務に違反したとは言えません。
結果の予見可能性があると言えるためには、具体的な(特定した)結果の発生とその結果発生に至る因果関係の基本的な部分が予見可能でなければなりません。
②結果を回避する義務
結果回避義務は、結果発生の危険性を減少させることを内容とするものです。
結果回避義務を尽くしても、結果が発生したといえる場合には、過失犯は成立しないことになります。
このように過失犯の成否を注意義務違反として結果予見義務違反及び結果回避義務違反という基準で判断する際に、問題となるのが、予見可能性をどの程度のものに限定するのか、いかなる注意義務を課すのか、といった点です。
この点について、判例や裁判例は「信頼の原則」を採用して判断しています。
「信頼の原則」というのは、被害者又は第三者が適切な行動をすることを信頼するのが相当である場合には、たとえその被害者又は第三者の不適切な行動によって結果が生じたとしても、それに対しては責任を負わないとする原則のことです。
この原則は、道路交通の場面を中心に判例によって承認されているものです。
交通整理の行われていない交差点を右折しようとした被告人が、車道中央付近でエンジンが停止したので、再び始動して発車しようとしたが、その際に左側方のみを注意して右側方に対する安全の確認を欠いたまま発車し、ゆっくり右折しようとしたとき、右側方からバイクが進行してくることに接近してはじめて気づき、慌てて被告人が急停止したものの間に合わず、バイクの運転手とぶつかり怪我を負わせた、という事案において、「自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、右側方からくる他の車両が交通法規を守り自車との衝突を回避するため適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足りるのであって、本件Bの車両(=バイク)のように、あえて交通法規に違反し、自車の前面を突破しようとする車両のありうることまでも予想して右側方に対する安全を確認し、もって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はない。」とした判例があります。(最判昭41・12・20)
信頼の原則は、信頼の対象となる被害者又は第三者の行為が適切になされれば、事故、ひいては結果の発生を回避し得ることを前提とするものです。
この原則は、自分が交通法規に違反していた場合でも、その適用が否定されるものでは必ずしもなく、被害者又は第三者が適切な行動にでることを信頼することが相当でない場合には、その適用が否定されます。
上記事例の場合にも、「信頼の原則」を適用し、過失の有無が判断される可能性があるでしょう。
交通事故を起こし、過失運転致死傷の罪に問われている、過失の有無が問題となっているなど、刑事事件化し対応にお困りの方は、交通事件にも対応する弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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非接触事故でひき逃げ
非接触事故でひき逃げとなる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
東京都日野市を車で走行していた会社員のAさんは、交差点を左折する際に、左側から横断歩道を渡ろうとしていた自転車の高校生にぶつかりそうになりました。
実際にはAさんの車と女子高生は接触していませんでしたが、驚いた女子高生は自転車ごと転倒しました。
Aさんは、「ぶつかったわけではないから自分のせいではないだろう。」と思い、その場を後にしました。
後日、警視庁日野警察署から連絡があり、過失運転致傷と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で取調べのため出頭するよう言われました。
Aさんは、出頭前に弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)
非接触事故でも過失運転致傷に?
交通事故というと、車と車、バイク、自転車、歩行者と接触した結果、相手方に怪我をさせたり、最悪の場合には死なせてしまう場合を想定される方がほとんどだと思います。
これに対して、相手方との物理的な接触を伴わない交通事故を「非接触事故」と呼びます。
接触事故を起こし、その結果、相手方に怪我を負わせてしまったり、死亡させてしまった場合には、通常、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)の「過失運転致死傷罪」が適用されることになります。
過失運転致死傷罪
自動車運転処罰法5条は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
つまり、過失運転致死傷罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠った結果、人を死傷させる」罪です。
「自動車の運転上必要な注意」というのは、自動車の運転者が、自動車の各種装置を操作して、そのコントロール下において、自動車を動かす上で必要とされる注意義務のことです。
ちょっとした前方不注意やわき見運転、巻き込み確認を怠ったなども「自動車の運転上必要な注意を怠った」ことになります。
この点、Aさんは、交差点を左折する際には、横断者の動静に注意を払い横断者の安全を確認する注意義務があり、それを怠っていた場合には、「自動車の運転上必要な注意を怠」ったことになります。
そして、過失運転致死傷罪の成立には、注意を怠った「ことにより」人を死傷させたという注意義務違反と人の死傷との間に因果関係がなければなりません。
接触事故の場合には、車が相手方に衝突(=接触)したことが人の死傷という結果を惹起したと、比較的容易に判断できるでしょう。
しかし、非接触事故の場合には、注意義務違反と人の死傷との間の因果関係が不明確であることもあり、過失運転致死傷罪の立証が困難な場合もあります。
以上のように、非接触事故であっても過失運転致死傷罪が成立する可能性はあります。
そして、交通事故を起こし、人を負傷させたにもかかわらず、救護することなく現場から逃走する行為は、いわゆる「ひき逃げ」となり、道路交通法上の救護義務違反及び報告義務違反に当たります。
ひき逃げ事件では、一度現場から逃走しているため、警察に逮捕される可能性があります。
また、ひき逃げ事件は、悪質性が高いとして、公判請求される場合も多いため、捜査段階から弁護士に相談し、きちんと弁護をしてもらうことが重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件にも対応する刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
交通事故を起こし対応にお困りの方は、弊所の弁護士にご相談ください。
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危険運転:技能未熟運転
危険運転致死傷罪における技能未熟運転について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
京都府綾部市の市道において、ワンボックス車を運転していたAさんは、交差点を左折する際に、歩行者をはねる事故を起こしました。
Aさんは、無免許で車を運転していたことが発覚し、京都府綾部警察署は、無免許の過失運転致傷の疑いでAさんを逮捕しました。
その後、Aさんは、危険運転致傷罪(技能未熟運転)で京都地方検察庁福知山支部に起訴されました。
(フィクションです。)
危険運転致死傷罪とは
人身事故を起こした場合、通常は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)で規定される「過失運転致死傷罪」が適用されることになります。
しかし、事故の内容によっては、より法定刑が重い危険運転致傷罪が適用されることがあります。
危険運転致傷罪は、危険な運転で人を死傷させた場合に適用される犯罪です。
自動車運転処罰法の2条と3条に規定されています。
アルコール・薬物の影響で正常な運転が困難で状態で自動車を運転する、運転をコントロールすることが困難なスピードで運転する、いわゆる「あおり運転」や赤信号無視などを行った結果、人に怪我を負わせてしまった場合には15年以下の懲役に、死亡させてしまった場合には1年以上の有期懲役が科される可能性があります。
自動車運転処罰法2条の危険運転には、技能未熟運転が含まれています。
技能未熟運転とは
「進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」が、技能未熟運転です。
この「進行を制御する技能を有しない」とは、どの程度のことを指すのでしょうか。
「進行を制御する技能を有しない」とは、ハンドル・ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能ですら有しないような運転の技量が極めて未熟なことを意味すると考えられています。
典型的な例としては、これまで一度も運転免許を取得したことがなく、自動車の運転経験もないような者であって、ハンドル・ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能がないにもかかわらず、自動車を走行させるような場合です。
「進行を制御する技能を有しない」かどうかの判断は、事故態様、運転状況、運転経験の有無やその程度などを総合的に考慮して判断されるでしょう。
そのため、「進行を制御する技能を有しない」=無免許とはなりません。
技能未熟運転での危険運転致死傷罪が成立するか否かは、さまざまな要素についてしっかりと検討する必要があります。
交通事故を起こし危険運転致死傷に問われてお困りの方は、法律の専門家である弁護士に相談してください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件にも対応する刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
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交通事件で身代わり
交通事件で犯人の身代わりをした場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
運送会社に勤めるAは、自家用車を運転し、妻Bと兵庫県神戸市北区に旅行に来ていました。
Aは、宿泊先近くの飲食店で夕飯を食べた際にお酒を飲んでいましたが、Aが車を運転して宿泊先に向かいました。
その道中、交差点で横断歩道を横断中の自転車と接触する事故を起こしてしまいました。
仕事に影響することを恐れたAとBは、Bが車を運転していたことにし、現場に来た兵庫県有馬警察署の警察官にもそう供述しました。
(フィクションです。)
交通事件では、犯人の身代わりとなるケースが他の事件と比べて多いと言われています。
特に、飲酒運転や無免許運転に該当するような場合には、その発覚を免れるために同乗者が犯人の身代わりとなることがあります。
上の事例のように、犯人の身代わりとなったBについて、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。
飲酒運転による人身事故を起こした犯人として身代わりとなったBに対しては、刑法上の犯人隠避の罪に問われる可能性があります。
刑法103条は、犯人蔵匿の罪について次のように規定しています。
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
犯人蔵匿の罪は、
①罰金以上の刑にあたる罪を犯した者または拘禁中に逃走した者を
②蔵匿し又は隠避させた
場合に成立します。
①「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃亡した者」
前者の「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」における「罰金以上の刑に当たる罪」というのは、法定刑に罰金以上の刑を含む罪を指します。
「罪を犯した者」とあるので、訴追・処罰の可能性がある者でなければなりません。
過去の判例は、「罪を犯した者」の意義について、犯罪の嫌疑を受けて捜査・訴追されている者と解しています。
告訴権の消滅や、時効の完成などにより訴追・処罰の可能性がなくなった者については、本罪の客体とはなりません。
一方で、保釈中の者であっても、その行方をくらませば公判手続・刑の執行に支障が生じるので、保釈中の者は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に該当します。
また、後者の「拘禁中に逃走した者」についてですが、法令により拘禁されている間に逃走した者のことです。
Bさんは、飲酒運転による人身事故を起こしたのであり、道路交通法違反と過失運転致死傷罪の2つの罪に問われる可能性が高いと考えられます。
そのため、Bさんは「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に該当すると言えるでしょう。
②蔵匿・隠避
「蔵匿」は、官憲による発見・逮捕を免れるべき隠匿場所を提供することです。
そして、「隠避」とは、「蔵匿」以外の方法により官憲による発見・逮捕を免れしめるべき一切の行為をいいます。
逃走のために資金を調達することや、身代わり犯人を立てるなどの他にも、逃走者に捜査の形勢を知らせて逃避の便宜を与えるなどの場合も「隠避」に含まれます。
加えて、本罪の成立には、客体である被隠避者が罰金以上の刑にあたる罪を犯した者であること、または拘禁中逃走した者であることを認識し、かつ、これを隠避することを認識すること(故意)が必要となります。
「罰金以上の刑にあたることの認識」について、過去の裁判例は、罪を犯した者または拘禁中に逃走した者であることの認識で足り、その法定刑が罰金以上であることまで認識している必要はないと解しています。(最決昭29・9・30)
以上のように、犯人の身代わりになった場合には、犯人隠避罪に問われる可能性があるのです。
しかし、犯人蔵匿の罪については、親族間の犯罪に関する特例があり、刑法105条は、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができるとしています。
そのため、犯人であるAの配偶者であるBについては、刑が免除される可能性があるでしょう。
ただ、この親族間特例は、「刑を免除することができる」と規定されているため、必ず免除されるとは限りません。
そのため、犯人隠避の罪に問われ、親族間特例が適用され得る場合には、弁護士に相談し、不起訴処分獲得に向けてしっかりと捜査機関に働きかけることが重要でしょう。
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ドア開扉事故と過失運転致死傷罪
ドア開扉事故と過失運転致死傷罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
埼玉県和光市を自家用車で走行していたAさんは、喉が渇いたため、近くのコンビニで飲み物を買うことにしました。
駐車場に車を止めるのが煩わしいと思ったAさんは、コンビニの前の路上で車を止め、シフトレバーをPに入れ、サイドブレーキをひき、エンジンをかけたまま、運転席のドアを開け外に出ようとしました。
すると、後方から走ってきた原付バイクがドアに接触し、原付バイクの運転手がバイクとともに転倒しました。
Aさんは、通報を受けて駆け付けた埼玉県朝霞警察署の警察官から話を聞かれています。
(フィクションです。)
車の運転を終了した直後に運転席のドアを開けたことで交通事故(人身事故)を起こしてしまった場合には、どのような罪責に問われることになるのでしょうか。
平成19年の刑法改正により、業務上過失致死傷罪のうち自動車運転に係るものに関しては、刑法211条2項に自動車運転過失致死傷罪が新設されました。
そして、その法定刑は7年以下の懲役又は禁固と業務上過失致死傷罪の法定刑よりも重くなりました。
その後、平成25年には、自動車運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転死傷処罰法」といいます。)が制定され、刑法の自動車運転過失致死傷罪は、過失運転致死傷罪と名称が変更されました。
ただ、この過失運転致死傷罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」ことが構成要件であるため、この罪が成立するためには「自動車の運転」をしている場合に限られます。
そのため、事故当時の状況が「自動車の運転」をしている場合であるかどうかが問題となり、「自動車の運転」をしている際に起こした事故であれば過失運転致死傷罪が適用され、そうでなければ業務上過失致死傷罪にとどまることになり、適用される罪によって科され得る刑罰にも大きな差が出てくることになるのです。
「自動車の運転」とは?
それでは、問題となっている「自動車の運転」という文言について説明してみたいと思います。
そもそも、道路交通法上、「運転」は、「道路において、車両又は路面電車をその本来の用い方に従って用いることをいう。」と定義されています。(道路交通法2条1項17号)
つまり、「本来の用い方に従って用いる」のを終えた段階で運転が終了するものと理解することができます。
すると、問題となるのは、どの段階で「用いるのを終えた」と言えるのか、ということになります。
車の動きを止めたときなのか、シフトレバーをPに入れたときなのか、サイドブレーキをかけたときなのか、エンジンを切ったときなのか、それとも、車両外に運転者が出たときなのか。
これについては、自動車の本来の用途を考えてみた場合に、単に車両を停止させただけの段階(ブレーキを踏んだだけの状態)や、その後の停止を確実にするための補助的動作をした段階(シフトレバーをPに入れただけの状態)では、未だ「用いる」ことを終了させたというには早過ぎるものとされ、自動車の動力を停止させた状態、つまり、エンジンを停止させた段階で、「用いる」のを終了させたと理解するのが一般的となっています。
ただ、宅配業者のように、宅配先に荷物を届けるため、宅配先に到着するたびにエンジンを停止して降車し、荷物を届けるといったことを繰り返す場合には、エンジンを停止させても、配達が完了すればすぐに車を発車して走行を続ける意思があるため、「運転」が終了したとは言えません。
「運転」が終了したと言うためには、エンジンの停止と運転者が主観的にも運転を終了させる意図があることが必要となるのです。
以上の考え方を前提にすると、運転を終了しようと思い、エンジンを停止した後、運転者が運転席のドアを開ける行為は、「運転」には当たらないものと言えるでしょう。
そのため、ドアを開ける際に後方等の安全確認を十分に行わなかったという過失により、ドアを通行者に衝突させて負傷させた場合には、業務上過失傷害罪が適用されることになるでしょう。
ただし、ドア開扉に起因した事故すべてが業務上過失致死傷罪で処理されるわけではありません。
交差点で一時停止してドアを開けた場合、宅配目的で宅配車を停止させてドアを開けた場合、タクシー運転手が客を乗せたり降ろしたりする際に停車して後部左側の自動ドアを開ける場合などは、運転行為が継続する中で起きたものと認められるため、過失運転致死傷罪が成立することがあります。
上記事例の場合、Aさんは過失運転致傷罪に問われる可能性もあります。
ドア開扉事故をはじめ交通事故を起こしてお困りの方は、交通事件に強い弁護士に相談してみてください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件にも対応する刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
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持病発症で人身事故
持病を発症し人身事故を起こした場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
神奈川県大和市に住むAさんは、車で妻を駅まで迎えに行く途中、持病のてんかんの発作で意識を失い、運転していた車ごと車道に乗り上げました。
車は、車道を歩行中の高齢女性に接触し、女性は重傷を負いました。
Aさんは、後日、横浜地方検察庁に自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪で起訴されました。
Aさんは、裁判で弁護をしてくれる弁護士を探しています。
(フィクションです)
持病を発症し人身事故を起こしたら
自動車を運転中に持病などが発症し、意識を失い、運転手や同乗者、対向車や歩行者が怪我をする、あるいは死亡する事故は少なくありません。
人身事故を起こした場合、多くは、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われることになります。
過失運転致死傷罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立する罪です。
「自動車の運転上必要な注意を怠り」とは、自動車の運転者が、自動車の各種装置を操作して、そのコントロール下において、自動車を動かす上で必要とされる注意義務を怠ることをいいます。
前方不注意や脇見運転、アクセルとブレーキの踏み間違いなどが該当します。
しかしながら、上記事例のように持病がありながら車を運転し、運転中に持病が発症したことにより人身事故を起した場合には、過失運転致死傷罪ではなく危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。
危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第3条2項)
自動車運転処罰法は、その3条2項において、
「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。」
と規定しています。
①政令で定めるものの影響により
ここでいう「政令で定める病気」というのは、
(1)自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する総合失調症
(2)意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)
(3)再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)
(4)自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈する低血糖症
(5)自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう秒及び鬱病を含む。)
(6)重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
です。
これらの病気の「影響により」とは、ただただ病気の影響によるものであることまで必要とされず、病気が他の要因と競合して正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になった場合も含まれます。
②その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態
「正常な運転に支障が生じるおそれのある状態」というのは、病気のために自動車を運転するのに必要な注意力、判断能力、操作能力が相当程度低下して危険性のある状態のことをいいます。
そのような危険性のある状態になり得る具体的なおそれがある状態も含まれ、意識を失うような発作の前兆症状が出ている状態であったり、処方された薬を服用しないために運転中に発作で意識を失ってしまうおそれがある状態などがこれに当たります。
また、本罪の成立には、運転行為終了までの間に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転したことの認識が必要となります。
そのため、病気が突然発症した場合、運転者は病気の症状について認識しておらず、病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあることの認識はないため、危険運転致死傷罪は成立しないことになります。
③よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた
本罪が成立するためには、病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、その結果正常な運転が困難な状態となり、人を死傷したという因果関係が存在しなければなりません。
てんかん発作の影響に関連する判例は、医師からてんかんの診断を受けていた場合、つまり、被告人がてんかんについて十分な知識がある場合だけでなく、てんかんの診断を受けていなくとも、てんかんに見られるような意識喪失をもらたす発作が過去に生じていた場合も、運転中にてんかんの発作が発症し、正常な運転に支障が生じるおそれがあると認識していたことを認めたものがあります。
Aさんの場合、医師からてんかんの診断を受けており、てんかんの症状について十分理解していたのであれば、「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し」たことを認識していたと故意が認められ、危険運転死傷罪が成立すると考えられます。
本罪の法定刑は、人を負傷させた場合は12年以下の懲役で、人を死亡させた場合は15年以下の懲役となっており、決して軽い罪とは言えません。
運転中に持病を発症し人身事故を起こし、危険運転致死傷罪に問われた場合には、できる限り寛大な処分となるよう交通事故に強い弁護士に相談されるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件を含む刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
無料法律相談・初回接見サービスに関するご予約・お問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881で24時間受け付けております。
ひき逃げ事故で逮捕
ひき逃げ事故について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
東京都昭島市で、歩行者の男性がトラックにひかれて重傷を負うひき逃げ事故が起きました。
警視庁昭島警察署は、トラックを運転したAさんを過失運転致傷と道路交通法違反の疑いで逮捕しました。
Aさんは、調べに対し、「何かにぶつかったが、人ではないと思った。」と容疑を否認しています。
(フィクションです)
「ひき逃げ」は、人身事故を起こしたにもかかわらず、被害者の救助や警察への通報をせずに、現場から逃走することを指す言葉として一般的に理解されています。
このような行為は、「道路交通法」という法律で運転手に課されている義務に反するものとして、刑罰の対象となります。
救護措置義務
道路交通法第72条は、交通事故があった場合の措置について定めています。
まず、本条第1項は、交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない旨を規定しています。
「負傷者を救護し」とは、現場において応急処置をすることの他、救急通報や負傷者を病院へ運ぶことも含まれます。
「道路における危険を防止する等必要な措置を講じ」るというのは、例えば、その交通事故を起こした車両等をそのまま道路上に放置することは危険なので、これをすみやかに他の場所に移動させることや、負傷者を安全な場所に移動させるなどといった措置です。
そして、道路交通法第117条において、当該義務違反に対する罰則を定めています。
その1項において、当該車両の交通による人の死傷があった場合、つまり、人身事故があった場合に、車両等の運転者が救護措置義務に違反したときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨について規定しています。
また、本条第2項は、救護措置義務の規定に違反した運転者のうち、その運転に起因して交通事故を生じさせた者、つまり、当該交通事故の発生に責任のある運転者に対しては、第1項よりも重い罰則、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨を定めています。
事後報告義務
道路交通法第72条1項の後段は、救護措置義務が生じて必要な措置をとった場合に、当該車両等の運転者に警察官に対して事故について報告する義務について定めています。
この義務に違反した場合には、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科される可能性があります。
交通事故の認識
交通事故が起きた場合の措置義務違反は、故意犯です。
「交通事故の発生」が当該「義務が生じる前提条件」である以上、当該義務を事故関与者である運転者に負わせるためには、運転者が、その車両等の交通により人の死傷(物の損壊)があったことについて認識していることが必要となります。
車両等の交通により人の死傷があったことについての認識の程度については、人に接触し、若しくはこれを転倒させしめたことのみについての認識で足りるとする見解と、人の死傷を生ぜしめたことの認識まで必要とする見解とがありますが、後者の見解が有力であるとされています。
救護措置義務違反と報告義務違反は、どちらも故意犯であり、人の死傷についての認識が必要とされますが、その認識は、必ずしも確定的なものである必要はなく、未必的(~かもしれない)な認識で足りると理解されています。
認識の程度については、個々の交通事故について具体的情況に基づいて合理的に判断されますが、一般的には、交通事故当時の運転者等の身体、心身の状況、現場の状況(特に路面の状況)、事故発生時の衝撃、音響、叫声の有無、自動車の損傷、事故態様、その他事故発生時の周囲の客観的事情を総合して判断されます。
上の事例において、ひき逃げが成立する場合には、過失運転致死傷罪及び道路交通法違反の2罪が成立することになります。
2罪は、併合罪の関係にあり、併合罪のうち2個以上の罪について有期懲役・有期禁錮に処するときは、その最も重い罪の刑について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とします。
そのため、過失運転致傷罪と道路交通法違反(救護措置義務違反)の2罪で有罪となった場合には、15年以下の懲役の範囲内で刑が言い渡されることになります。
一方、過失運転致傷罪のみが成立する場合には、有罪となれば7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金の範囲内で刑が言い渡されます。
交通事故を起こしてしまい、ひき逃げが疑われている場合には、すぐに交通事件に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
法律の専門家である弁護士に相談し、取調べで誘導に乗り不利な供述がとられてしまわないよう取調べ対応についてのアドバイスを受けることをお勧めします。
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ながら運転で交通事故
ながら運転で交通事故を起こした場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
友人宅に向かうため、東京都板橋区を自家用車で走行していたAさんは、待ち合わせ時間に遅れることを友人に伝えるため、スマートフォンの通信アプリを使ってメッセージを送信することにしました。
Aさんは急いでメッセージを作成しようと思い、運転しながらスマートフォンを操作していたところ、信号待ちのため前方で停車していたバイクに気が付かず後方から衝突してしまいました。
Aさんは慌てて車を降りて、転倒したバイクに駆け寄り、救急車を呼びました。
Aさんは、現場に駆け付けた警視庁板橋警察署の警察官に事情を聴かれています。
(フィクションです)
ながら運転に対する罰則
運転中にもかかわらず、スマートフォンを操作したり電話をするといった危険な行為を行う運転手は少なくありません。
このような「ながら運転」に起因する痛ましい事故が多く発生したことを受け、令和元年12月に施行された改正道路交通法は、「ながら運転」に対する罰則を強化しました。
道路交通法第71条は、車両等を運転する者の遵守事項として、走行中の携帯電話等の使用等の禁止を定めています。
自動車等を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、無線通話装置を通話のために使用し、または画像表示用装置に表示された画像を注視することを禁止しています。
ここで問題となる違反行為は、
①携帯電話使用等(保持)違反
と
②携帯電話使用等(交通の危険)違反
の2つです。
①携帯電話使用等(保持)違反
無線通話装置(携帯電話や自動車電話、トランシーバーなど)でかつ、その全部または一部を手で保持しなければ送信・受信のいずれをも行うことができないものを手で持って通話のために使用する行為、または画像表示用装置(カーナビや自動車テレビ、携帯のディスプレイ部分など)を手で持って表示された画像を見続ける行為が禁止されています。
上の事例のように、文字メッセージを送る行為は、画像注視に当たります。
この違反については、6月以下の懲役または10万円以下の罰金が科される可能性があります。
②携帯電話使用等(交通の危険)違反
①の違反行為(画像注視については、保持・非保持を問いません。)を行い、その結果として交通事故を起こしたり、交通事故に至らなくとも、後続車や対向車に急ブレーキをかけさせたり、道路交通に具体的危険を生じさせた場合には、1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
ながら運転で交通事故を起こした場合
ながら運転に起因した事故をおこした場合、相手方に怪我を負わせた、あるいは死亡させてしまったのであれば、多くの場合に過失運転致死傷罪が成立することになります。
過失運転致死傷罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立する罪です。
「自動車の運転上必要な注意を怠り」というのは、自動車の運転者が、自動車の各種装置を操作して、そのコントロール下において、自動車を動かす上で必要とされる注意義務を怠ることです。
自動車を運転中にスマートフォンを操作しメッセージを作成・送信する行為は、前方不注意であり、「自動車の運転上必要な注意を怠」る行為と言え、当該行為に起因して人身事故を起こしたのであれば、過失運転致死傷罪が成立するものと言えるでしょう。
前方不注視というのは運転手に課せられた最も基本的な義務であり、ながら運転に起因した人身事故における運転者の過失は重いものと判断されるでしょう。
ただ、相手方の怪我の程度や保険による賠償がなされた(もしくはなされる予定である)か否かなどの点も考慮して、最終的な処分が決められますので、ながら運転で交通事故を起こしてしまった場合には、早期に弁護士に相談し、寛大な処分となるよう適切な活動を行うのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件をはじめとした刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
ながら運転で交通事故を起こし対応にお困りの方は、今すぐ弊所の弁護士にご相談ください。
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飲酒運転と危険運転致死傷罪
飲酒運転と危険運転致死傷罪との関係について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
Aさんは、居酒屋で飲酒した後、それ程酔っていないと感じたため、自分の車で帰ることにしました。
Aさんは、千葉県柏市の交差点に向かって進行していましたが、赤信号で停止していた車及びその後ろに停止していたバイクに気が付くのが遅れ、急ブレーキをかけましたが間に合わず、バイクの後方から追突しました。
バイクは、追突された勢いで、前方に停止していた車に追突しました。
バイクの運転手は重傷を負い、車の運転手は軽傷を負っています。
Aさんは、現場に駆け付けた千葉県柏警察署の警察官に事情を聴かれていますが、事故直前についてあまり思い出せません。
警察からは危険運転致傷罪も視野に入れて捜査する旨を伝えられ、とても心配しています。
(フィクションです)
飲酒運転による人身事故
飲酒後にそのアルコールの影響がある状態で車両等を運転した結果、人に怪我を負わせる(最悪の場合には、人を死亡させる)事故を起こした場合には、どのような罪が成立するのでしょうか。
1.道路交通法違反及び過失運転致死傷罪
飲酒運転による人身事故を起こした場合、道路交通法違反(酒気帯び運転又は酒酔い運転)、そして、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)で規定されている過失運転致死傷罪が成立する可能性があります。
◇道路交通法違反◇
まず、飲酒運転について、道路交通法違反が成立します。
道路交通法は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」とし、酒気帯び運転等の禁止について定めています。(道路交通法第65条1項)
つまり、一般的に、飲酒運転は禁止されています。
そのうち、道路交通法は、「酒酔い運転」又は政令数値以上酒気帯び運転に当たるときに限り罰則を設けており、政令数値未満の単なる酒気帯び運転については、訓示規定にとどめています。
呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ミリグラム以上である状態が、政令数値以上の酒気帯び運転となります。
酒気帯び運転に対する罰則は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
一方、酒酔い運転は、アルコール濃度の検知数に関係なく、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態である場合をいいます。
酒酔い運転に当たるか否かは、例えば、まっすぐに歩けるかどうか、受け答えがおかしいかといった点を総合的にみて判断されます。
酒酔い運転に対する罰則は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
◇過失運転致死傷罪◇
人身事故を起こした場合に適用される罪の多くは、過失運転致死傷罪です。
この罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立するものです。
前方不注意、スピード違反、標識の見落としなどにより、人身事故を起こした場合には、過失運転致死傷罪が成立することになるでしょう。
過失運転致死傷罪の罰則は、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金です。
以上、飲酒運転をし、人身事故を起こした場合に成立し得る罪としては、まずは、道路交通法違反及び過失運転致死傷罪が考えられます。
この場合、2つの罪は併合罪となり、2つの罪のうち最も重い罪の刑について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期となります。
2.危険運転致死傷罪
次に、飲酒運転で人身事故を起こした場合に成立し得る罪として挙げるのは、危険運転致死傷罪です。
自動車運転処罰法は、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することを定めています。(自動車運転処罰法第2条1号)
「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」というのは、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることをいいます。
先の述べた「酒酔い運転」における「正常な運転ができないおそれがある状態」とは異なり、泥酔状態で、前方の注視が困難になったり、ハンドルやブレーキ等の捜査の時期や加減について、これを思い通りに行うことが現実に困難な状態にあることが必要となります。
そのため、運転者において、道路や交通の状況、自動車の性能等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることを認識していたことが求められます。
また、本罪が成立するためには、アルコールの提供により正常な運転が困難な状態であったということと、当該事故との間に因果関係がなければなりません。
つまり、当該事故が、的確な運転行為を行っても避けることができないと認められる場合には、因果関係が否定され、本罪は成立しませんが、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態下での運転行為においては、道路や交通の状況を正確に認識し、これらの状況に応じた運転操作を的確に行うことが困難な心身の状態にあり、そうした中において脇見をしたり、ハンドル操作を誤ったり、前方不注視を行った場合であれば、正常な運転が困難な状態に起因するものであるため、因果関係が認められることになります。
自動車運転処罰法は、「アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する」と規定しています。(自動車運転処罰法第3条1項)
先の危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第2条1号)は、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で、そのことを認識して自動車を運転し、人を死傷させた者を処罰対象としているのに対して、自動車運転処罰法第3条1項は、アルコールの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態という抽象的な危険性がある状態で、そのことを認識しつつ自動車を運転し、その結果としてアルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させた者を処罰対象とするものです。
「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というのは、自動車運転処罰法第2条1号における「正常な運転が困難な状態」には至っていないが、アルコールの影響のために自動車を運転するために必要な注意力、判断能力、捜査能力が相当程度低下して危険性のある状態や、そのような危険性のある状態になり得る具体的なおそれがある状態を指します。
酒気帯び運転に当たる程度のアルコールを身体に保有する状態は、この状態に当たるとされています。
ただ、本罪は、酒気帯び運転のように、客観的に一定の基準以上のアルコールを身体に保有しながら車両等を運転する行為を処罰するものではなく、運転の危険性や悪質性に着目した罪であるため、アルコールの影響を受けやすい者が、酒気帯び運転に該当しない程度のアルコールを保有している場合であっても、自動車を運転するのに必要な注意力等が相当程度減退して危険性のある状態にあれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に該当すると考えられます。
しかし、本罪の成立には、単に酒気帯び運転に該当する程度のアルコールを身体に保有する状態であることを認識しているだけでなく、それが「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることを認識していることが必要となります。
自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪は、道路交通法の酒気帯び運転又は酒酔い運転を前提にしているため、前者が成立する場合には後者の罰則は適用されません。
Aさんの場合、運転開始当初は、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」でしかなかったと考えられますが、事故前の運転状況や事故態様如何によっては、事故を起こした際には「正常な運転が困難な状態」にあったと認定される可能性もあります。
飲酒運転で人身事故を起こした場合、どのような罪が成立するかは、事故の内容によって異なりますので、交通事件に精通する弁護士にきちんと相談されるのがよいでしょう。
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