睡眠導入剤の影響による危険運転致死傷罪

2021-08-14

睡眠導入剤影響による危険運転致死傷罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
Aさんは、運転中に意識障害に陥り、福岡県うきは市の道路の左端を歩いていた歩行者に衝突し、全治1か月の怪我を負わせる事故を起こしてしまいました。
Aさんは、前夜に睡眠導入剤を服用しており、その影響があったのではないかと、福岡県うきは警察署危険運転致死傷の適用も視野に入れて捜査をしています。
(フィクションです。)

危険運転致死傷罪とは

人身事故を起こした場合、通常は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)に規定されている「過失運転致死傷罪」が適用されます。
これは、自動車を運転する上で必要な注意を怠り、人を死傷させる罪です。
しかし、過失の程度がひどく、故意や故意に近いような重大な過失によって交通事故を起こした場合には、自動車運転処罰法に規定されている「危険運転致死傷罪」に問われることになります。

自動車運転処罰法2条1号は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を行い、よって、人を負傷させた場合は15年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処することを定めています。

■薬物の影響により正常な運転が困難な状態■

「薬物」とは、覚せい剤や麻薬といった規制薬物や、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律」(以下、「医薬品医療機器等法」といいます。)で指定された指定薬物に限らず、中枢神経系の興奮もしくは抑制または幻覚の作用などを有する物質であって、自動車を運転する際の判断能力や運転操作能力に影響を及ぼす性質を持つ物質であればよいとされています。

「薬物の影響」とは、薬物の摂取により正常な身体又は精神の状態に変化を生じ、運転に際して注意力の集中、距離感の確保等ができないため、運転者に課せられた周囲義務を果たすことができないおそれのある状態をいいます。
「薬物の影響により」とあるように、運転操作に対する障害は、薬物の「影響により」もたらされなければなりません。
そのため、薬物を摂取した場合であっても、睡眠不足や過労の影響で注意力が散漫になり、その結果、事故を起こしたのであれば、それは薬物の影響により惹起されたものではなく、本罪は成立しません。

「正常な運転が困難な状態」については、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることをいいます。

そして、「よって」という文言があるように、本罪が成立するためには、薬物の影響により正常な運転が困難な状態であったということと、当該事故との間に因果関係があることが必要です。
つまり、当該事故が、的確な運転行為を行っていたとしても回避不能であると認められる場合には、因果関係が否定されることになります。

■故意■

危険運転致死傷罪は故意犯であるため、罪を犯す意思がなければなりません。
つまり、被疑者が当該車両を運転している際に、自己が「薬物の影響により正常な運転が困難な状態」にあることを認識している必要があるのです。
この点、被疑者に求められる認識は、法的評価の伴う「薬物の影響により正常な運転が困難な状態」ではなく、それを基礎付ける事実についての認識です。
薬物を摂取して頭がふらふらするとか、幻覚がちらついているとか、正常な運転が困難な状態に陥るための事実関係を認識していれば足りるとされています。
単に、被疑者自身が「正常に運転できる」と思っていたとしても、過去に薬物を摂取して運転して意識障害を何度も起こしている、薬物の効能を知っている、といった事実があれば薬物の影響により正常な運転が困難である状態であることを認識していたものと認められます。

また、同法3条1号は、「アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り」、人を負傷させた場合は12年以下の懲役に、人を死亡させた場合は15年以下の懲役に処する、と規定しています。

■その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で■

「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、先の「正常な運転が困難な状態」であるとまではいえないものの、自動車を運転するのに必要な注意力、判断能力または操作能力が、そうではないときの状態と比べると相当程度減退して危険性のある状態、そして、そのような危険性のある状態になり得る具体的なおそれがある状態をいうとされています。

■故意■

運転開始前、または運転中に薬物を摂取し、それによって「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」となっていることを認識しながら運転したのであれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」を認識していたと言えます。
先に述べたように、薬物の薬理作用を知っていながら摂取した場合は、「正常な運転が困難な状態」の認識があったことになるものと考えられます。
しかし、初めて当該薬物を用いる場合、その薬理作用について正確な知識がない場合でも、少なくとも精神・神経に何らかの影響を与えることは十分承知しているはずであるから、その未必的な危険性については認識しており、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」についての認識があったと認められるでしょう。

睡眠導入剤の影響による危険運転致死傷罪

睡眠導入剤には、脳の機能を低下させ、大脳辺縁系や脳幹網様体と呼ばれる部分の神経作用を抑えることで睡眠作用をもたらす薬理作用があります。
睡眠導入剤影響による危険運転致死傷罪の成立が争われる場合、
①運転操作に睡眠導入剤影響を与えたか否かが不明であるから、薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転してはいない、薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ってもいない。
②薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転することについての認識がない。
といった主張がなされるケースが想定されます。
睡眠導入剤影響のよる危険運転致死傷罪が成立し得るのか、事案によって異なりますので、交通事件に対応する弁護士に相談されるのがよいでしょう。

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