危険運転:制御することが困難な高速度
制御することが困難な高速度による危険運転について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
Aさんは、東京都小平市の道路を自車で走行しているとき、制限時速60キロとされ、左に大きく湾曲した道路(限界旋回速度は時速100キロ)に差し掛かったものの、速度を出しすぎていたので曲がり切れず、右に逸走して対向車線を走行していた車両に衝突し、運転手を負傷させてしまいました。
Aさんは、警視庁小平警察署に危険運転致傷の疑いで逮捕されました。
(フィクションです)
危険運転致死傷罪
従前、刑法第208条の2に規定されていた「危険運転致死傷罪」における悪質かつ危険な一定の運転行為と同等に通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為により人を死傷させたことも「危険運転致死傷罪」として、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(いわゆる、「自動車運転死傷処罰法」。)が規定しています。
「危険運転致死傷罪」は、次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処せられます。
①アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。
②進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。
③進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。
④人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
⑤車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接見することとなる方法で自動車を運転する行為。
⑥高速自動車国道において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為。
⑦赤信号等を殊更無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
⑧通行禁止道路を進行し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
これら①から⑧に該当する行為をしたことによって、人を死傷させた場合に、危険運転致死傷罪が成立することになります。
制御することが困難な高速度とは
危険運転致死傷罪の対象となる行為、「制御することが困難な高速度」で自動車を走行させる行為における「制御することが困難な高速度」とは、どの程度のものか、という点が問題となります。
ここでは、「湾曲した道路」について過去の裁判でどのように解釈されてきたのかについてご紹介します。
◇限界旋回速度を超えた速度での進行◇
平成22年12月10日の東京高等裁判所の判決によれば、「進行を制御することが困難な高速度」とは、「速度が速すぎるため自動車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいうと解される。」としています。
この点、道路が湾曲していた場合については、どのような速度を指すのかが問題となります。
一般的には、その湾曲した道路の限界旋回速度(自動車がカーブに沿って走行することができる最高速度)を超えて走行した場合、車輪が遠心力により横滑り等を起こし、運転操作が困難になるため、制御が困難な速度と言えます。
先の東京高等裁判所の判決で示された各要素も併せて検討されることとなりますが、基本的には、限界旋回速度を超えて走行している場合、ハンドル操作等のミスによって事故を起こしたのであれば、進行を制御することが困難な高速度での走行による危険運転致死傷罪が成立するものと考えらるでしょう。
◇限界旋回速度を超えてはいないが、それに近い速度での進行◇
限界旋回速度を超えることはないものの、それに近い速度で走行した場合について、上の東京高等裁判所の判決は、「被告人車の速度は、本件カーブの限界旋回速度を超過するおのではなかったが、ほぼそれに近い高速度であり、そのような速度での走行を続ければ、ハンドル操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度であったというべきであるから、進行を制御することが困難な高速度に該当すると認められる。」とし、平成21年10月20日の福岡高等裁判所の判決は、「本件カーブの限界旋回速度に近い速度で進行していた本件車両について、本件カーブに沿って適度にハンドルを右に切り、その終点に向けてそれまで右に切っていたハンドルをタイミングよく左に戻していくという操作や対向車線にはみ出していたのを自車線内に戻すために、それまで右に切っていたハンドルを、単に戻すだけでなく、横滑りの状態を引き起こさないように適度に左に切り返す捜査は、いずれもわずかなミスも許されない極めて繊細で高度な判断と技術を要すると考えられ、したがって、本件車両の走行は、刑法第208条の2第1項後段[当時]所定の『進行を制御することが困難な高速』であったと認められる。」としています。
このように、限界旋回速度に近い速度での進行は、わずかなミスをも許されないような状況に追い込まれるため、この限界旋回速度を基準にして、超える場合だけでなく、それに近い速度であっても、「進行を制御することが困難な高速度」と認定される可能性があります。
◇限界旋回速度未満であるが、制限速度を超える速度での進行◇
限界旋回速度よりは遅いものの、制限速度は超えている場合、制限速度は、「進行を制御することが困難な高速度」を考慮する上で、どのように位置付けられるのでしょうか。
過去の判決には、限界旋回速度を基準とせず、制限速度をはるかに上回る高速度であることが制御不能を来す原因の一つとして考えられ、「進行を制御することが困難な高速度」を認めたものがありますが、必ずしもすべての判決で「進行を制御することが困難な高速度」を検討する際に制限速度超過が重視されているわけではありません。
平成20年1月17日の松山地方裁判所の判決は、最高時速が時速50キロとされた道路を時速約80キロで走行し、右方の湾曲した道路に沿って走行することができず、左斜め前方に逸走させたという事案において、事故現場の限界旋回速度が時速約93ないし120キロであったところ、限界旋回速度の下限を約13キロも下回っていること、そして時速約70キロで走行していた車両が存したことなどが考慮され、「進行を制御することが困難な高速度」とは認めませんでした。
「制御することが困難な高速度」での危険運転致死傷罪に問われている場合には、「進行を制御することが困難な高速度」で運転する行為により、ハンドル操作等のミスが生じたため、人を死傷させてしまったか否かについて、科学的な根拠に基づいて争います。
危険運転致死傷事件における弁護活動は、刑事事件に精通する弁護士に任せるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事件をはじめとした刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
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