駐車場での当て逃げ

2020-09-05

駐車場での当て逃げ事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

東京都目黒区のスーパーマーケットでの買い物を終えたAさんは、駐車場に停めていた車を発進させました。
Aさんがハンドルを右にきって駐車場を出ようとしたところ、前に駐車してあった車の前方に当ててしまいました。
Aさんは、「たいしたことないだろう。ここは駐車場だから、道路上での事故ではないから、警察に通報しなくてもいいだろうし。」と思い、その場を後にしました。
数日後、警視庁碑文谷警察署の警察官が、Aさんの留守中にAさんの自宅を訪ね、「先日、〇×マーケットの駐車場当て逃げ事件が発生したのですが、被害に遭った車のドライブレコーダーにAさんの車が映っていましたので、お話を伺えればと思いまして。」とAさんの妻に言いました。
Aさんは留守だったため、警察官は「また日を改めて伺います。」と言って帰って行きました。
妻から話を聞いたAさんは、素直に出頭しようと思っていますが、その前に今後の流れについて弁護士に相談することにしました。
(フィクションです)

駐車場での当て逃げ事件は、残念ながら少なくありません。
人身事故ではなく物損事故であることや、被害に遭った車の持ち主がその場にいないことが多いので、「バレないだろう。」と多寡を括り、そのまま駐車場を後にするケースが多いようです。
また、「駐車場内の事故は交通事故ではない。」と思われている方も多いようですが、「駐車場内での事故」は、「交通事故」として処理されないのでしょうか。

道路交通法における「道路」とは

「交通事故」というのは、陸上・海上・航空交通における事故の総称をいいますが、ここでは道路上の交通事故(道路交通事故、自動車事故)を指すものとします。

交通事故の定義を定める主要な法律は、「道路交通法」です。
道路交通法第67条2項によれば、交通事故とは、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」をいいます。
道路交通法上の「車両」には、「自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバス」が含まれます。
「交通」とは、道路、すなわち歩道や路側帯をも含めた道路上における交通のことをいいます。
ですので、道路以外の場所で車両等の走行により人が死傷し、物が損壊したとしても、交通事故とはならないのです。
それでは、道路交通法における「道路」とは何を指すのでしょうか。
道路交通法第2条1項1号は、「道路」の意義について、「道路法第2条第1項に規定する道路、道路運送法第2条8項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう」と定義付けています。
「道路法第2条1項に規定する道路」とは、一般交通の用に供する道で、高速自動車国道、一般国道、都道府県道及び市町村道をいい、トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーター等道路と一体となってその効用を全うする施設又は工作物及び道路の付属物でその道路に附属して設けられているものを含むとしています。
「道路運送法第2条8項に規定する自動車道」とは、専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で、先の道路法による道路以外のものをいいます。
そして、「一般交通の用に供するその他の場所」とは、道路法第2条1項に規定する道路及び道路運送法第2条8項に規定する自動車道を除いた場所において、現実の交通の有無をとらえてこの法律上の道路とするものをいいます。
事実上道路の体裁をなしてい交通の用に供されている私道や、道路の体裁はなしてはいないけれども、広場、大学の構内の道路、公園内の通路といった、一般交通の用に供され開放され、かつ、一般交通の用に客観的にも使用されている場所を指します。
駐車場というのは、基本的に私有地に当たりますが、不特定多数の人、車両等が交通のために利用している場所であれば、道路の形態を備えていなくとも、「一般交通の用に供するその他の場所」に当たり、道路交通法における「道路」に該当することになります。

そのため、「駐車場」での事故は、交通事故として処理される場合もあるのです。

交通事故を起こした場合には、当該交通事故に係る車両等の運転手その他の乗務員は、

①直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならず(救護措置義務)、
②救護措置義務を生じ、必要な措置をとった場合に、当該車両等の運転手は、警察官に対して事故について報告しなければなりません(事故報告義務)。

物損事故の場合、負傷者が出ていないため、警察に報告する義務がないと誤解されていることが多いのですが、事故報告義務は、車両等の交通により人の死傷があったときはもとより、単に物の損壊があっただけの場合においても、その損壊の大小を問わず、また、その交通事故により交通秩序が混乱したかどうか、すでに負傷者が救護されたかどうか等の具体的状況のいかんに関係なく、当該車両等の運転者は警察官に報告しなければなりません。

よって、駐車場内で物損事故を起こし、そのまま立ち去った場合には、道路交通法違反が成立し、刑事責任に問われる可能性があります。

人身事故のひき逃げ事件と比べて、当て逃げ事件においては、身体が拘束された上で捜査がされる可能性は低いでしょう。
しかし、被疑者として取調べを受けることになりますので、取調べ対応や被害者への謝罪・被害弁償等、事件を穏便に終わらせるためにも弁護士に相談の上対応するのがよいでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、交通事故にも対応する刑事事件専門の法律事務所です。
交通事故を起こしてお困りであれば、弊所の弁護士にご相談ください。

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