飲酒運転と危険運転致死傷罪

2020-12-12

飲酒運転危険運転致死傷罪との関係について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
Aさんは、居酒屋で飲酒した後、それ程酔っていないと感じたため、自分の車で帰ることにしました。
Aさんは、千葉県柏市の交差点に向かって進行していましたが、赤信号で停止していた車及びその後ろに停止していたバイクに気が付くのが遅れ、急ブレーキをかけましたが間に合わず、バイクの後方から追突しました。
バイクは、追突された勢いで、前方に停止していた車に追突しました。
バイクの運転手は重傷を負い、車の運転手は軽傷を負っています。
Aさんは、現場に駆け付けた千葉県柏警察署の警察官に事情を聴かれていますが、事故直前についてあまり思い出せません。
警察からは危険運転致傷罪も視野に入れて捜査する旨を伝えられ、とても心配しています。
(フィクションです)

飲酒運転による人身事故

飲酒後にそのアルコールの影響がある状態で車両等を運転した結果、人に怪我を負わせる(最悪の場合には、人を死亡させる)事故を起こした場合には、どのような罪が成立するのでしょうか。

1.道路交通法違反及び過失運転致死傷罪

飲酒運転による人身事故を起こした場合、道路交通法違反(酒気帯び運転又は酒酔い運転)、そして、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転処罰法」といいます。)で規定されている過失運転致死傷罪が成立する可能性があります。

◇道路交通法違反◇

まず、飲酒運転について、道路交通法違反が成立します。
道路交通法は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」とし、酒気帯び運転等の禁止について定めています。(道路交通法第65条1項)
つまり、一般的に、飲酒運転は禁止されています。
そのうち、道路交通法は、「酒酔い運転」又は政令数値以上酒気帯び運転に当たるときに限り罰則を設けており、政令数値未満の単なる酒気帯び運転については、訓示規定にとどめています。
呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ミリグラム以上である状態が、政令数値以上の酒気帯び運転となります。
酒気帯び運転に対する罰則は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
一方、酒酔い運転は、アルコール濃度の検知数に関係なく、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態である場合をいいます。
酒酔い運転に当たるか否かは、例えば、まっすぐに歩けるかどうか、受け答えがおかしいかといった点を総合的にみて判断されます。
酒酔い運転に対する罰則は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。

◇過失運転致死傷罪◇

人身事故を起こした場合に適用される罪の多くは、過失運転致死傷罪です。
この罪は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立するものです。
前方不注意、スピード違反、標識の見落としなどにより、人身事故を起こした場合には、過失運転致死傷罪が成立することになるでしょう。
過失運転致死傷罪の罰則は、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金です。

以上、飲酒運転をし、人身事故を起こした場合に成立し得る罪としては、まずは、道路交通法違反及び過失運転致死傷罪が考えられます。
この場合、2つの罪は併合罪となり、2つの罪のうち最も重い罪の刑について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期となります。

2.危険運転致死傷罪

次に、飲酒運転で人身事故を起こした場合に成立し得る罪として挙げるのは、危険運転致死傷罪です。
自動車運転処罰法は、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することを定めています。(自動車運転処罰法第2条1号)
「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」というのは、道路及び交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることをいいます。
先の述べた「酒酔い運転」における「正常な運転ができないおそれがある状態」とは異なり、泥酔状態で、前方の注視が困難になったり、ハンドルやブレーキ等の捜査の時期や加減について、これを思い通りに行うことが現実に困難な状態にあることが必要となります。
そのため、運転者において、道路や交通の状況、自動車の性能等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態にあることを認識していたことが求められます。

また、本罪が成立するためには、アルコールの提供により正常な運転が困難な状態であったということと、当該事故との間に因果関係がなければなりません。
つまり、当該事故が、的確な運転行為を行っても避けることができないと認められる場合には、因果関係が否定され、本罪は成立しませんが、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態下での運転行為においては、道路や交通の状況を正確に認識し、これらの状況に応じた運転操作を的確に行うことが困難な心身の状態にあり、そうした中において脇見をしたり、ハンドル操作を誤ったり、前方不注視を行った場合であれば、正常な運転が困難な状態に起因するものであるため、因果関係が認められることになります。

自動車運転処罰法は、「アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する」と規定しています。(自動車運転処罰法第3条1項)
先の危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第2条1号)は、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で、そのことを認識して自動車を運転し、人を死傷させた者を処罰対象としているのに対して、自動車運転処罰法第3条1項は、アルコールの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態という抽象的な危険性がある状態で、そのことを認識しつつ自動車を運転し、その結果としてアルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させた者を処罰対象とするものです。
「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というのは、自動車運転処罰法第2条1号における「正常な運転が困難な状態」には至っていないが、アルコールの影響のために自動車を運転するために必要な注意力、判断能力、捜査能力が相当程度低下して危険性のある状態や、そのような危険性のある状態になり得る具体的なおそれがある状態を指します。
酒気帯び運転に当たる程度のアルコールを身体に保有する状態は、この状態に当たるとされています。
ただ、本罪は、酒気帯び運転のように、客観的に一定の基準以上のアルコールを身体に保有しながら車両等を運転する行為を処罰するものではなく、運転の危険性や悪質性に着目した罪であるため、アルコールの影響を受けやすい者が、酒気帯び運転に該当しない程度のアルコールを保有している場合であっても、自動車を運転するのに必要な注意力等が相当程度減退して危険性のある状態にあれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に該当すると考えられます。
しかし、本罪の成立には、単に酒気帯び運転に該当する程度のアルコールを身体に保有する状態であることを認識しているだけでなく、それが「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることを認識していることが必要となります。

自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪は、道路交通法の酒気帯び運転又は酒酔い運転を前提にしているため、前者が成立する場合には後者の罰則は適用されません。

Aさんの場合、運転開始当初は、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」でしかなかったと考えられますが、事故前の運転状況や事故態様如何によっては、事故を起こした際には「正常な運転が困難な状態」にあったと認定される可能性もあります。

飲酒運転で人身事故を起こした場合、どのような罪が成立するかは、事故の内容によって異なりますので、交通事件に精通する弁護士にきちんと相談されるのがよいでしょう。

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