赤色信号看過と過失運転致傷罪・危険運転致傷罪
赤色信号看過と過失運転致傷罪・危険運転致傷罪
赤色信号看過と過失運転致傷罪・危険運転致傷罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
神奈川県平塚市に住むAさんは、深夜午前1時頃、普通乗用自動車を運転して帰宅途中、前方の対面信号の赤色表示を看過し、時速約60キロメートルで交差点に進入しました。
そうしたところ、右方から交差点に進入してきたVさん運転の軽自動車に自車を衝突させ、Vさん運転の軽自動車を電柱に衝突させてVさんに加療約1か月間を要する怪我を負わせました。
Aさんは、通報を受けて駆け付けた神奈川県平塚警察署に過失運転致傷罪で現行犯逮捕され、その後起訴されました。
(フィクションです)
~ 過失運転致傷罪 ~
過失運転致傷罪とは、どんな罪なのでしょうか?
まずは、過失運転致傷罪が規定されている法律、条文から確認することにします。
過失運転致傷罪は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、法律)」の5条に規定されています。
法律5条
自動車の運転上必要な注意義務を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
つまり、過失運転致傷罪が成立した場合、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処される可能性があります。
「自動車の運転上必要な注意義務を怠り」とは、「過失」があることをいいます。
では、「過失」とは何かというと、難しく言えば、犯罪事実の認識又は認容がないまま、不注意によって一定の作為・不作為を行うことをいいます。
そして、「不注意」とは注意義務をいいますから、「過失」とは、要は、注意義務を怠ること(注意義務違反=~すべき(注意義務)だったにもかかわらず、それを怠った、しなかったということ)をいうのです。
~ 本件の場合の「注意義務」とは? ~
では、本事例における「注意義務」とは何かといえば、それはもちろん、信号表示に従って交差点内に進入する義務でしょう。
道路交通法7条では、「道路を通行する歩行者又は車両等は、信号機の表示する信号・・・・に従わなければならない」と規定されています。
なお、道路交通法施行令2条では、「赤色の灯火」の意味について「車両等は、停止位置を超えて進行してはならないこと」などと規定しています。
このことから、本事例では、「赤色信号に従わなければならない」「停止位置を超えてはならない」とことが「注意義務」、それに違反することが「注意義務違反」=「過失」ということになります。
~ 故意ある場合は危険運転にも ~
なお、これまでは過失を前提としたお話でしたが、対面信号が赤色表示につき故意がある場合、すなわち、「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合」は「危険運転」とされるおそれがあることに注意を要します。
危険運転の場合、人を負傷させた場合は「15年以下の懲役」、人を死亡させた場合は「1年以上の有期懲役」です。
なお、「殊更に無視」の意義について、判例(平成20年10月16日)では、「およそ赤色の投下信号に従う意思のないものをいい、対面信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを認識し、交差点入口の停止線手前で停止することが十分であるのに、これを無視して交差点に進入する行為はもちろん、赤色の灯火信号であることについて確定的な認識がない場合であっても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色の灯火信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も含まれる」としています。
また、「重大な交通の危険を生じさせる速度」については、「時速約20キロ」がこれに当たると判示した裁判例(札幌高裁平成17年9月8日)があります。
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