【さいたま市】飲酒運転の犯人隠避罪①

2019-04-16

【さいたま市】飲酒運転の犯人隠避罪①

Aさんは,さいたま市浦和区で一緒に居酒屋で酒を飲んでいた交際相手であるBさんから「ちょっとコンビニまでたばこを買いに行きたい」「車を貸してほしい」と頼まれ,運転キーをBさんに渡しました。
そして,Bさんは,Aさん名義の車を運転してコンビニまで向かう途中,運転を誤って車を道路端の電柱にぶつけてしまいました。
Bさんは,車を動かすことができず,埼玉県浦和警察署に電話しようかと考えました。
しかし,Bさんは飲酒運転をしてきた上に,大事な就職試験をひかえていたことからAさんに電話し,「大変なことをしてしまった」「飲酒運転がばれると就職できなくなるから,ここはお前が運転していたことにしてくれないか」といいました。
Aさんはどうしようか迷いましたが,長年交際してきたBさんのためならと思い,急いで現場に急行し,現場に来た警察官に自分が飲酒運転の犯人である旨を言いました。
ところが,後日,Bさんが飲酒運転していたことが判明し,Aさんは犯人隠避罪,道路交通法違反(車両提供の罪),Bさんは道路交通法違反(酒気帯び運転の罪),犯人隠避教唆の罪で逮捕されました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

事例のように,酒酔い・酒気帯び運転,無免許運転など運転者の身代わりとなって,警察官に「自分が犯人だ」などと虚偽の供述をするというケースが散見されます。
これのようなケースが起きやすいのは,事故(あるいは違反)発生から警察官の現場臨場まで時間があること,実際の運転行為を現認している者がいないことなどの理由から,比較的,当事者間で口裏合わせをしやすいことが原因だと思われます。
本件では,Aさんが「自分が飲酒運転の犯人だ」などと言って虚偽の供述をし,犯人隠避罪に問われています。
そこで,まず,犯人隠避罪とはどんな罪なのかみていきたいと思います。

~ 犯人蔵匿・隠避罪 ~

犯人隠避罪については刑法103条に規定されています。

刑法103条
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者(略)を蔵匿し,又は隠避させた者は,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

= 罰金以上の刑に当たる罪 =
「罰金以上の刑に当たる罪」とは,法定刑として罰金刑以上の刑が規定されていればよく,選択刑として拘留・科料が規定されていても構わないとされています。
この点,Bさんは道路交通法違反(酒気帯び運転の罪)に問われているわけですが,酒気帯び運転の罪の法定刑は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですから,Bさんが犯した罪は「罰金以上の刑に当たる罪」に当たることになります。

= 罪を犯した者 =
「罪を犯した者」の意義については,
・無実の者を蔵匿・隠避する行為は,国家の刑事司法作用を侵害する程度が著しく低く,期待可能性に乏しいなどとして,真犯人に限るという説
・国家の刑事司法作用を害する者を処罰するという103条の趣旨に鑑み,真犯人に限らず,犯罪の嫌疑を受けて捜査又は訴追されている者も含むとする説
がありますが,判例は後者の説に立っています。
本件では,Bさんが真犯人であることは明らかですから,いずれの説に立つにしてもBさんは「罪を犯した者」に当たります。

= 蔵匿・隠避 =
「蔵匿」とは,犯人に場所を提供してかくまってやることをいいます。
「隠避」とは,蔵匿以外の方法によって官憲による逮捕・発見を免れされる一切の行為を指し,Aさんのように,Bさんの代わりに警察官に「自分が犯人だ」と言う行為,自首する行為,犯人に変装用の衣服や旅費を与える行為などは「隠避」に当たります。

= 故意 =
本件の故意としては,Aさんが被蔵匿者又は被隠避者が「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」であることの認識が必要ですが,判例は,罰金以上の刑に当たる罪質の犯罪事実を犯した者であることを知っていれば,その罪の法定刑が罰金以上であることの認識までは必要ないとしています。
つまり,Aさんが,Bさんが「飲酒運転を起こした人」であるという程度のことが分かっていれば故意は認められそうです。
この点,Aさんは,Bさんと一緒に酒を飲んでいたこと,Bさんから飲酒運転したことを打ち明けられていることからすれば故意は認められそうです。

以上から,Aさんには犯人隠避罪が成立しそうです。

~ 車両提供罪 ~

本罪は,相手方が酒気を帯びている者で,酒気を帯びて車両等を運転すること(飲酒運転すること)となるおそれがあることを認識しながら,相手方に車両等を提供した場合に成立する犯罪です(道路交通法65条2項)。
罰則は,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(道路交通法117条の2第2号)。
「提供」とは,提供を受ける者が利用し得る状態に置くことをいい,Aさんのようにエンジンキーを渡す行為などがこれに当たります。
Aさんは,車両提供罪でも処罰される可能性があります。

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