免許証の偽造・不正取得
【免許証の偽造・不正取得の法定刑】
1 運転免許証を偽造した場合の法定刑は、有印公文書偽造罪として、1年以上10年以下の懲役です(刑法第155条1項、2項)。
偽造した運転免許証を使用した場合は、偽造公文書行使罪として、免許証を偽造した場合と同様の法定刑になります(刑法第158条1項)。
2 偽りその他不正な手段で運転免許証の交付(再交付を含む)を受けた場合の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です(道路交通法第117条の2の2)。
【免許証の偽造・不正取得の解説】
1 免許証の偽造について
都道府県の公安委員会が発行する自動車等の運転免許証は、公務所もしくは公務員の作成すべき文書として、公文書偽造罪における公文書に該当します。
この公文書である免許証を権限のない人が作成する行為は、公文書偽造罪による処罰対象となります。
運転免許証偽造事件の多くは、公安委員会の印章(印鑑)も免許証の偽造に使用されるため、有印公文書偽造罪として印章(印鑑)・署名が入っていない無印公文書偽造罪よりも法定刑が重くなります。
有印公文書偽造罪には罰金刑が定められておらず、運転免許証の偽造によって起訴されると正式裁判で懲役刑に問われる可能性が高くなります。
ただ、公文書偽造罪は目的犯であり、単に運転免許証に似たものを作っただけで「行使の目的(偽造文書を本物の文書又は内容が正しい文書と人に誤信させる目的)」がなければ公文書偽造罪は成立しません。
2 免許証の不正取得について
免許証を偽造するのではなく、虚偽の申告などにより本物の運転免許証を不正取得(再交付を含む)した場合には、道路交通法違反として刑事処罰の対象になります。
運転免許証の不正取得に対しては、2013年道路交通法改正によって厳罰化され、法定刑が引き上げられています。
運転免許証の不正取得の場合、初犯であれば略式裁判による罰金処分で済むことが多いですが、犯行の悪質性や無免許運転の有無によっては正式裁判になることがあります。
また、同種前科がありながら免許証の不正取得を繰り返している人や執行猶予期間中に免許証の不正取得をした人は、実刑判決によって刑務所に収容される可能性が出てきます。
【免許証の偽造・不正取得事件の刑事弁護活動】
1 不起訴・無罪判決(前科回避)
身に覚えのない運転免許証の偽造・不正取得の容疑を掛けられてしまった場合、弁護士を通じて、警察や検察などの捜査機関または裁判所に対して、アリバイや真犯人の存在を示す証拠を提出したり、故意ではなく過失(記入ミス、申告漏れなど)であることを客観的証拠に基づいて指摘したりして、公文書偽造罪、偽造文書行使罪、道路交通法違反を立証する十分な証拠がないことを主張することで不起訴処分又は無罪判決を目指します。
実際に、偽造した運転免許証を所持していた場合でも、偽造免許証を使うつもりがなかったとか偽造免許証で他人を騙すつもりがなかったなどの事情がある場合には、免許証の偽造に「行使の目的」がなかった又は偽造免許証の「行使」には該当しないことを主張・立証することで、不起訴処分又は無罪判決を目指す弁護活動を行います。
2 前科回避・正式裁判回避
運転免許証の偽造・不正取得による公文書偽造罪・道路交通法違反の成立に争いのない場合、免許証の偽造・不正取得について犯行態様が悪質でないこと、組織的・反復的な犯行ではないことなどを主張して、起訴猶予による不起訴処分または不正取得の場合は略式裁判による罰金処分になるように(正式裁判にならないように)弁護活動を行うことが可能です。
3 刑務所回避・減刑
運転免許証の偽造・不正取得で裁判になった場合でも、裁判所に対して、免許証偽造・不正取得の態様、目的、被害結果などから被告人に有利な事情を主張・立証するとともに、再発防止の具体的な取り組みや環境を示すことで、減刑及び執行猶予付き判決を目指します。
4 身体拘束からの解放
運転免許証の偽造・不正取得で逮捕・勾留されてしまった場合には、事案に応じ、釈放や保釈による身柄拘束を解くための弁護活動を行います。