自転車の交通事故

2021-03-06

自転車交通事故について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
大学生のAさん(20歳)は、右手でスマートフォンを操作しながら、大阪府松原市自転車で走行していました。
スマートフォンを注視していたところ、前方の歩行者に気付かず、衝突してしまいました。
歩行者は転倒し、頭を打ったようでした。
Aさんは、すぐに救急車を呼び、歩行者は近くの病院へ救急搬送されました。
大阪府松原警察署から駆け付けた警察官が、Aさんに事情を聞いています。
(フィクションです。)

交通事故と言えば、自動車による自動車・バイク・自転車・歩行者に対して起こすものを想像される方が多くいらっしゃるように、自転車交通事故の被害者となるケースが多く見受けられます。
このように、車の運転者などが交通事故を起こし、加害者となる場合には、過失運転致死傷罪(場合によっては危険運転致死傷罪)が成立し、処罰されることになります。
通常は、交通弱者として被害者として交通事故に登場することが多い自転車ですが、自転車と自転車の事故や、自転車と歩行者の事故においては、加害者となることがあります。
そのような場合には、車が加害者となる場合に成立し得るとして先に述べた過失運転致死傷罪等が適用されることはありません。
また、刑法上の業務上過失致死傷罪についても、「業務上」という概念は、「人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものであることを必要」(最高裁判決昭和33年4月18日)とすると解されているため、自転車が人力で動くものであり、比較的軽量であることから、自転車を運転する行為が他人の生命身体等に危害を加えるおそれのある行為であるとは考えられず、自転車により交通事故を起こし、他人に怪我を負わせたり、死亡させてしまった場合には、業務上過失致死傷罪は成立しないものと考えられます。
そのため、自転車による交通事故が生じた場合には、重過失致死傷罪又は過失傷害罪・過失致死罪の成立が検討されることになります。

(過失傷害)
刑法第209条 
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

(過失致死)
刑法第210条 
過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

(業務上過失致死傷等)
刑法第211条 
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

1.過失傷害罪

過失傷害罪は、「過失」により人を傷害した場合に成立する罪です。
暴行や傷害の故意がなく、不注意によって人に傷を負わせてしまうものです。
自転車による交通事故の原因が、ちょっとしたよそ見などの場合は、過失傷害罪となるでしょう。
過失傷害罪は、被害者等の告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪です。

2.過失致死罪

過失致死罪は、過失によって人を死亡させた場合に成立する罪です。
上の過失傷害のように、不注意によって人を死亡させてしまうものです。

3.重過失致死傷罪

重過失致死傷罪は、刑法211条後段に規定されている罪で、「重大な過失」により人を死傷させることで成立するものです。
裁判例によれば、「重大な過失」は、「注意義務違反の著しい場合、すなわち、わずかな注意を用いることによって危険性を察知することができ、結果発生を回避できたであろう場合」(福岡高裁判決昭和55年6月12日)をいうとされていたり、「わずかな注意を払うことにより結果発生を容易に回避しえたのに、これを怠って結果を発生させた場合」(東京高裁判決昭和57年8月10日)をいうとされています。
これまでの自転車による交通事故に関する裁判例では、自転車が無灯火で走行した場合、信号看過や無視をした場合、一時停止の標識を無視して進行した場合、前方不注意が著しい場合、無謀な横断行為がなされた場合などについて、重過失が認められており、片手で携帯電話を操作しながら前方をよく見ずに走行した場合にも、重過失が認められるものと考えられるでしょう。

このように、自転車による交通事故であっても、刑事責任が問われる可能性がありますので、自転車交通事故を起こした場合には、刑事事件に精通する弁護士にご相談ください。

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