(事例紹介)無免許運転などの身代わり出頭をさせて犯人隠避教唆罪

2022-10-06

(事例紹介)無免許運転などの身代わり出頭をさせて犯人隠避教唆罪

~事例~

無免許運転で事故を起こして逃げた内縁の夫の代わりに、親族の女性を出頭させたとして、大阪府警八尾署は26日、犯人隠避教唆の疑いで、(中略)容疑者(51)を逮捕した。容疑を認めているが、「逃げたのは(内縁の夫ではなく)運転していた知り合いの男だ」と供述している。
同署は、事故を起こした同居する内縁の夫(中略)も自動車運転処罰法違反(無免許過失致傷)容疑などで逮捕。「事故を起こした車は運転していない。後部座席に乗っていた」と容疑を否認している。

(中略)容疑者(※注:「内縁の夫」とされる男性)の逮捕容疑は8月7日午前、同府八尾市末広町の府道で乗用車を無免許で運転し、別の乗用車に接触。運転していた50代男性らを負傷させ、そのまま逃走したとしている。(中略)容疑者(※注:犯人隠避教唆罪の容疑者)は同日、(中略)容疑者(※注:「内縁の夫」とされる男性)が事故を起こしたと知りながら、自身の親族の20代女性を身代わりとして同署に出頭させたとしている。
(後略)
(※2022年9月26日16:54産経新聞配信記事より引用。ただし注釈は追記したものです。)

~身代わり出頭と犯人隠避罪~

今回取り上げた事例では、無免許運転で事故を起こした身代わり出頭をさせた容疑者が犯人隠避教唆罪の容疑で逮捕されたと報道されています。
こうした身代わり出頭に関連するケースは、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所でも度々相談に来られる方がいらっしゃいます。
身代わり出頭に関連したケースでは、今回の事例でも登場している犯人隠避罪という犯罪が問題となることが多いです。

刑法第103条
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

刑法第103条では、今回取り上げる犯人隠避罪のほか、犯人蔵匿罪と呼ばれる犯罪も同時に定めています。
どちらも犯罪の嫌疑をかけられて捜査されている最中の者を対象に隠しだてしたり逃がしたりなどすることで成立する犯罪であり、した行為が隠避なのか蔵匿なのかによって犯人隠避罪が成立するのか犯人蔵匿罪が成立するのかが異なります。

ここでいう「蔵匿」とは、簡単にいえば場所を提供して匿う行為を指します。
例えば、刑事事件の被疑者を自宅で匿うような行為は犯人蔵匿罪に当たります。
一方、「隠避」とは、「蔵匿」以外の方法で犯人を逃がしたり逃亡の支援をしたりして、捜査や逮捕を免れさせる行為を指します。
例えば、逃亡資金を渡したり、車に乗せて遠方まで逃がしたりといった行為は「隠避」に当たると考えられます。
今回の事例のような、身代わり出頭をすることや、身代わりを立てることもこの「隠避」に当たります。

しかし、この犯人隠避罪犯人蔵匿罪には、特別な規定があります。
それが刑法第105条に定められている特例です。

刑法第105条
前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
(※注:「前二条の罪」とは、刑法第103条の犯人蔵匿罪・犯人隠避罪と、刑法第104条の証拠隠滅罪を指します。)

この特例は、犯人の親族が犯人を思って逃がそうとしてしまうのは、人間として自然な感情であると理解されていることによります。
しかし、この特例ではあくまで「その刑を免除する『ことができる』」という表現にとどまっているため、犯人蔵匿罪犯人隠避罪を犯したのが親族だからといって、必ずしも刑罰を受けないとは限らないということに注意が必要です。

今回の事例について当てはめてみましょう。
報道によると、そもそも身代わり出頭自体は、無免許運転や事故を起こしたとされている容疑者の内縁の妻の親族の女性がしているようです。
ですから、この女性には犯人隠避罪が成立するということになりそうです。
さらに、この女性からすると、無免許運転や事故を起こしたとされている容疑者は「親族の内縁の夫」という立ち位置であり、親族ではありませんから、刑法第105条の特例も適用されないでしょう。

そして、今回取り上げた事例で逮捕されている容疑者は、犯人隠避「教唆」の容疑がかけられているようです。
この「教唆」とは、大まかにいえば他人をそそのかして犯罪をさせることを指します。
今回の事例では、報道の内容によれば、身代わり出頭をした女性が自発的に身代わり出頭をしたのではなく、逮捕された容疑者が身代わり出頭をさせたという経緯のようです。

刑法第61条第1項
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

「正犯」とは、簡単に言えば、実際にその犯罪をした人のことを指します。
つまり、犯人隠避罪の教唆をした場合、実際に犯人隠避罪をした人と同じ刑罰の範囲で刑罰を受けることになります。
すなわち、犯人隠避教唆罪で有罪となれば、犯人隠避罪同様「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」という範囲で処罰されます。

無免許運転などの交通違反に関連する犯罪などについては、「交通違反程度なら身代わりになってもよい」などと軽く考えてしまい、身代わり出頭をしてしまったり身代わり犯人を用意してしまったりということがおきやすいのかもしれません。
しかし、身代わり出頭によってさらなる犯罪が成立してしまい、より重い処罰が下る可能性もあるため、身代わり出頭は決しておすすめできません。

もしも身代わり出頭をしてしまった、身代わり出頭させてしまったということで刑事事件の当事者になってしまった場合には、その後の刑事手続に適切に対応するためにも、まずは弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、こうした身代わり出頭事件のご相談・ご依頼も承っていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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