危険運転致死傷罪
【危険運転致死傷罪の法定刑】
1 危険運転致死罪の法定刑は、危険運転の態様に応じて、1年以上20年以下の懲役または15年以下の懲役です(自動車運転死傷行為処罰法第2条、第3条)。
2 危険運転致傷罪の法定刑は、危険運転の態様に応じて、15年以下の懲役または12年以下の懲役です(自動車運転死傷行為処罰法第2条、第3条)。
【危険運転致死傷罪の解説】
1 危険運転致死傷罪とは
危険運転致死傷罪とは、法の定める危険な状態で自動車(自動二輪や原動機付自転車を含む)を走行・運転して人を死傷させる罪です。
2 刑罰の厳罰化のため導入
危険運転致死傷罪は、悪質で危険性の高い交通違反による交通事故に対する刑罰の厳罰化のため、2001年の刑法改正で導入されました。
2013年の自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称、自動車運転死傷行為処罰法)の新設に伴い、従来型の危険運転致死傷罪について条文が刑法から自動車運転死傷行為処罰法に移行されるとともに、危険運転致死傷罪の適用対象行為の追加、新類型の危険運転致死傷罪の規定が行われました(自動車運転死傷行為処罰法第2条、第3条)。その後,あおり運転対策として,2020年に再度法改正が行われ,対象行為が拡大されました。
この自動車運転死傷行為処罰法成立によって、危険運転致死傷罪の適用される範囲が拡大されました。
3 通行禁止道路の走行が追加
従来型の危険運転致死傷罪の適用対象となる危険運転行為には、従来から危険運転致死傷罪の適用対象であったアルコールや薬物の影響で正常な運転ができない状態での走行、制御困難な高速度での走行、制御技能を有しない走行、重大な交通の危険を生じさせる速度での人や車への意図的な接近、割り込み、信号無視に加えて、新たに危険運転致死傷罪の適用対象として重大な交通の危険を生じさせる速度での通行禁止道路の走行(歩行者天国の暴走や一方通行路や高速道路の逆走など)が追加されました。
また、新類型の危険運転致死傷罪の適用対象となる危険運転行為として、アルコールや薬物の影響または幻覚や発作を伴う病気(政令で定められる)の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での走行が規定されました。
4 あおり運転行為が追加
それまでの危険運転致死傷罪は,車の走行中の事故を念頭に規制がなされていました。そのため,前に割り込む等の方法で車を停止させ,その後に人が死傷したような場合に対応できませんでした。
そのため,2020年法改正により,一定の状況で車を停止させる行為により人が死傷した場合も,危険運転致死傷として処罰することとなりました。
5 実刑判決の可能性
交通事故を起こして危険運転致死罪で刑事処罰を受ける場合、多くは執行猶予の付かない実刑判決となり、長期間刑務所に入らなければならない可能性が高くなります。
なお、死亡事故を起こした後に事故現場から逃走する「ひき逃げ」があった場合は、さらに罪が重くなります。
【危険運転致死傷事件の刑事弁護活動】
1 不起訴・無罪判決(前科回避)
身に覚えのない危険運転致死傷罪の容疑を掛けられてしまった場合、弁護士を通じて、警察や検察などの捜査機関または裁判所に対して、不起訴処分又は無罪判決になるよう訴えていきます。
具体的には、アリバイや真犯人の存在を示す証拠を提出したり、被害者や目撃者の証言が信用できないことを指摘したりして、危険運転致死傷罪を立証する十分な証拠がないことを主張することで不起訴処分又は無罪判決を目指します。
実際に、交通事故を起こしてしまった場合でも、客観的証拠に基づく運転状況や被害者の行動、交通事故現場の状況等から、運転態様が危険運転致死傷罪の適用対象となる危険運転行為に当たらないことを主張立証することで、危険運転致死傷罪について不起訴処分又は無罪判決を目指す弁護活動を行います(過失運転致傷罪で処罰される可能性は残ります)。
2 正式裁判回避
実際に交通事故を起こしてしまった場合、被害者や遺族への被害弁償と示談交渉を行うことで、正式裁判の回避を目指した弁護活動を行います。
危険運転致死傷罪については、公判請求によって正式裁判が行われることが多いですが、被害者のケガの程度が軽くて処罰感情が和らいでいれば、略式裁判による罰金処分を目指すことも可能です。
3 刑務所回避・減刑
危険運転致死傷罪で裁判になった場合でも、被害者や遺族との間で被害弁償又は示談をしたり、ケガの程度、運転の態様や不注意(過失)の程度などから被告人に有利な事情を主張・立証することで、減刑及び執行猶予付き判決を目指します。
4 身体拘束からの解放
危険運転致死傷事件で逮捕・勾留されてしまった場合には、事案に応じ、釈放や保釈による身柄拘束を解くための弁護活動を行います。